2013年07月24日

ひらひら村の夕陽63

「ねえ、上村さん。ふまじめってどういうことでしょう」
 落ち着いた裕子がぽつりと言った。上村はハグしていた腕をゆるめた。とまどったように顔を見る。
「ゆうこさんはまじめだと思います」
 そういって、顔をふせた。上村とは一度だけとは言え不倫の関係になったのだ。裕子は軽く笑顔を浮かべた。
「息子に、会いました。20年ぶりに。その息子に言われたんです。ふまじめなのに、人を裁いてきたって。ひどく責められました」
 裕子は、20年前に夫と姑に愛想をつかし、息子を連れて家を出たこと。その後に夫が息子を連れ戻してしまったこと。離婚の話し合いの中でありもしない虐待をデッチあげられ離婚をせざるを得なかったことを話した。
 上村は聞き終わっても、裕子をじっと見ていた。
「息子さんが言ったことって、もしかしたら、裕子さん自身に対して優しくなかったってことじゃないですか?」
 上村は裕子の肩を抱いた。裕子は気が抜けた顔で上村を見た。上村が続ける。
「裕子さんは、傷ついても、なんとか自分で解決しようとしすぎたんじゃないですか」
「だって、誰も頼れなかったじゃない」
 裕子は子どものような目をした。
「でも、もっとずるくてもよかった。たとえば、一度、家にもどっておいて、ご主人や子どもをちゃんと手なずけてから、お姑さんを追い出してもよかったし、方法はあったと思う。そこのところが、甘いっていうか、直球すぎたんじゃないかな」
 上村は優しい声で言った。



Posted by ひらひらヒーラーズ at 17:15│Comments(0)
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