2011年02月05日

アリジゴクな日々

 ある日、仕事から帰ると息子(小3)が満面の笑顔でよってきた。このパターンは何か頼みごとがあるに決まっている。
「ねえ。お父さん。今日学校でねえ宿題出された。あのさあ、来週までに理科の宿題で冬の昆虫を調べなくちゃいけないんだけど…」
 と息子。
「冬の虫か? てんとう虫の冬越しに、あとはミノムシ、イラガのまゆでも探しにいくか。日曜日に」
 ビールをあけながら答える私。
「だめ、だめ。そんなベタなネタじゃあ笑いがとれんよ」
「はあ? 学校の宿題にベタもなにもないだろ? なんで笑いをとらないかんの?」
「だからさあ、ぼくにも『アマチュア落語家の息子』としてのプライドがある。授業中1回はみんなをびっくりさせて、笑いをとらんとつまらん」
 そういって、私のビールをとりあげてグラスに注いでくれた。こっちも悪い気はしない。
「なにか、考えがあるのか?」
 思わず、話に乗ってしまった。
「さすがお父さん。あのねえ。アリジゴクがほしい」
 目を輝かせる息子。その向こうから冷ややかな視線を送ってくる妻。
「アリジゴク? そんなのどこにいるんだよ」
 私は声をひっくり返した。ビールどころじゃない。息子は昆虫図鑑を持って走ってくる。
「あのねえ、雨のあたらない、さらさらの砂のところにいるんだって。お寺の軒下とか川の橋の下だって」
「ふううん。そうか、さがしてみるか」
 かくして、息子は地図、私はインターネットのマップページを探し、妻は知り合いに電話しまくり、まさしく家庭内探偵ナイトスクープ状態に陥る事50分。豊川の橋、豊川稲荷の奥の院、砥鹿神社、財賀寺、宮路山、とリストアップできた。
 そして、日曜日。豊川稲荷から回っていく、×。豊川の橋、下条、当古、三上、加茂まとめて×。砥鹿神社、×。
 夕方、あきらめかけていた宮路山の展望台の下であこがれのアリジゴクをゲットした。プラスティックの水槽にたっぷり砂を入れて持ち帰るとしっかりすり鉢状の巣を作った。
 めでたし、めでたしと思いきや。
「ねえ、アリジゴクってなに食べるんだっけ?」
 妻がポツリと言った。
「そんなの決まってるよ。アリじゃないか」
 と息子。
「アリ? どこにいる? この冬に」
 と妻。もしかして、今度は冬の寒空のもとでアリ探し? もう夕方だし! 気が遠くなり、アリジゴクに落ちたアリの気持ちが分かってきた。
「だいじょうぶだよ。あのねえ、アリジゴクって2ヶ月くらい餌がなくても死なないらしいよ」
 息子の明るい声が、ひとすじの光明に感じられた。2ヶ月の執行猶予があれば…、4月になれば…、アリが出てくる。
「でもさあ、このアリジゴクが、今日えさを食べたならいいけどさあ、最後にえさを食べたのが、2ヶ月前だったら?」
 妻の一言で、私と息子はまた「アリジゴクの巣」の真ん中に落ちていくのであった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 00:40│Comments(4)
この記事へのコメント
やばっ…凄いじゃないですか!僕もありじごくほすぃ〜!!
blogに写真をアップしてくださいよ♪
Posted by ホシヲ at 2011年02月05日 19:08
ホシヲさま
 ありがとうございます。了解しました。
Posted by siramiya at 2011年02月05日 19:15
えっと、昔おばあちゃんの家に遊びに行くと田舎すぎて、何もなかった為 蟻やら、ちっちゃい昆虫をアリジゴクに落として楽しんでましたアリジゴク、いいですよ
Posted by ゆみ at 2011年02月06日 00:34
>ゆみさま
ありがとうございます。アリジゴクってほんと味がりますね。虫を落とすと、ピッって砂をかけるの面白いです。
 
Posted by siramiya at 2011年02月06日 09:12
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