2011年02月18日

友引ツーリングクラブ4

 しらみやと分かれて、マンションをあとにしても梨花はいつものように怒らなかった。康平はひやひやしながら自転車をこいだ。これまでなら「しらみやさん。いったいどういうつもり?」
 といきりたつパターンだった。

 その夜康平は中々寝付けなかった。2時までおぼえている。急に意識が薄れるように眠ったら不思議な夢を見た。
 背の高い草の中に立っていた。細い道が草の中から続き自分が立っているところから登り坂になって道が続いている。緑色と赤の着物を着た女の人が立っている。

「三河なる 二見の道 …」
 女の人の声はとちゅうから風の声に消された。
 目がさめると窓から強い日がさしこんでいた。体中汗にぬれていてなぜだかたまらないさみしさが残っていた。ぼんやりしていると携帯がなった。梨花からだった。
「康平。私、夢を見た。ほら、昨日三明寺で見せてもらった弁財天様。緑色と赤色の着物をきたきれいな人」
 梨花がそこまで言うのを聞くと、康平はさっきまで見ていた夢を思い出した。彼の夢に出て来たのも弁財天だったのが分かった。
「梨花ちゃん。ぼくも見たんだよ。弁財天の夢。二見の道とか、なんか言ってた」
 康平が言うと、梨花はいっしゅん息を呑んだ。
「同じ夢見たのかなあ。私の夢でも、二見の道っていうのが出てきた」
「ねえ、それどんな夢?」
「坂の下の背の高い草の中で、弁財天さまと平安貴族風の男の人が立っていたの。男の人が『…二見の道ゆ…」とか言って急に泣き出すの。そのあと、白いひげの仙人が現れて『みずのえのサルが、サムライになる時、トラに羽が生えて、竜にかみつく」って言って消えた。
 康平はしばらく黙っていたがやっと口を開いた。
「ねえ、夢の中に出てきた。ところって川べりの坂の下じゃなかった?」
 梨花が電話の向こうで小さく息をするのが聞こえた。
「たぶん。同じ夢だ」
 康平はやっとそれだけ言った。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 23:42│Comments(0)
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