2011年05月05日

友引ツーリングくらぶ(大津の皇子の怨霊)

 康平は梨花の手に耳を近づけた。てのひらの石からは何も聞こえない。
「ぼくには聞こえないけど」
「あのね。石から直接聞こえるんじゃなくて、なにか波みたいな物が胸に伝わってきて、熱い物がくるの」
 梨花は康平の胸に石を近づけた。康平は目を閉じて気持ちを石に集中した。
「国を守れ。国を護れ」
 透き通った声が康平の心に届いた。
「国を護れって言ってるかな」
 康平が言うと、梨花は康平の目を見てうなずいた。梨花の父、鬼村、それに医王寺の住職がじっと二人を見た。
「ああ。地震だ」
 住職が叫んだ。本堂全体がゆれて、岩のぶつかるような音が響いた。五人はその場に座りこんだ。
「あれ? こんなに揺れても、仏像がたおれてこない」
 少し落ちついたところで康平が言った。音はまだ続いていたし、五人が揺れを感じていたことは変わらないが、天井から下がっている金色の飾りも全く揺れていない。
「はっはっはあ~。やっと気づいたか? 地震などではないわ。呪ってやる。苦しめ。人間ども」
 まわりが急に暗くなってじめっとした空気が漂うと、地の底から声が響いてきた。
「大津の皇子の怨霊だ」
 鬼村が小声で言った。五人はよりそってかたまった。気味の悪い声は、五人のまわりをぐるぐる回りながら「苦しめ。苦しめ」と言い続けた。
「おまえが、ヌエを送り込んだり、マンションの社長に悪いことをさせたのか」
 康平が大声で言った。
「そうだ。だが、まだまだ、これからだ。楽しみにしておれ」
 大津の皇子の声はそこで消えて、揺れもおさまった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:13│Comments(0)
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