しらみやなんきんのシマイニャ本音をいうぞ

　昨日は息子の学校で読み聞かせの日でした。それでなくても暑いのに、着物に着替えて図書室で待っていました。
　
とっそこへ校内アナウンスが入りました。

「校内にいらっしゃる先生方。子どもたちを教室に避難させてください。校庭で遊んでいる子たちはすぐに教室に入りなさい。窓

に近づいてはいけません」

　いつもゆったりかまえていらっしゃる教頭先生の声が、いつになく緊張しているのが分かります。もしかして、緊急地震速報

か？　いよいよ東海大地震か？　身がまえた私は思わず落語用のデカ座布団を頭に乗せ図書室の閲覧テーブルにもぐり込み

ました。その状態で待つこと約１分。不気味な静寂の中、妻がテーブルの横から顔をのぞかせました。

「なんちゃん。なにやっとるの？　ちょっと出てきて！」
　
　妻が座布団引っぱって無理やり引き出します。

「あほ。地震が来たらどうする」

「あほはどっち？　地震じゃなくて犬が学校に入りこんだらしいよ。なんちゃんつかまえて来たら？　子ども達のヒーローだよきっと」

「うん。犬は好きだもんな。それで校庭か？　犬は」

「ううん。３階の渡り廊下だって見に行ってみよ」

　かく言う妻に手を引かれ、行って見て身をひきました。でかいんです。普通にしていて顔が私の胸ぐらい、後ろ足で立つとたぶん私の頭を前足で張り倒せるくらいにはなります。真っ白なふさふさの毛です。

「ウルトラマンで見た『ウー』みたいだ」

　私がつぶやくと、いつのまにとなりにいらした先生がうれしそうに笑顔を見せました。

「『ウー』はここまで階段で来たんですよね」

　私がたずねると先生はうなずいてから、手にしていた本を私にあずけ勇敢にも『ウー』の前に出ていきました。学校中が固唾を呑んで見守る中、彼は『ウー』の喉もとをくすぐり、みごと手なずけました。

　子どもたちから、拍手のうずが起こりました。『ウー』は後からやってきた警察に引き渡されました。落とし物扱いだそうです。

　ちなみに、そのあと、５分遅れて読み聞かせの時間です。私はヒーローにはなれなかったけど、５分遅れで始まって、きっちり一席落語やりーのばっちり予定の時間に終わりました。人呼んで「帳尻合わせのしらみや」です。

「誰もほめてくれないけど、けっこう難しいんだよね。時間合わせるの」
　汗になった着物をたたみながら、自分をほめるのでありました。