2011年07月08日

友引ツーリングくらぶ(羽根のある虎)

 豊川が空へと舞い上がり、エメラルドグリーンの竜になった。輝き大きな声を響かせながら夜空を舞った。あいかわらず時間は止まったようにまわりの人間達は動かない。風も止まったままだった。
 西の空から、黄色に輝く塊が現れた。竜へ向かって飛んでいく。そして空中で体当たりした。羽根のある大きな虎だった。
虎と竜は左右に分かれてにらみ合った。虎が大きくほえると地面がゆれた。そして大津の皇子の姿に変わった。
「ほー。大した物だ。いい物を見せてもらった。川を竜に変えたか? 利修仙人。1300年ぶりの勝負にはもってこいだ。行くぞ」
 大津の皇子はまた虎の姿にもどって竜の首筋に噛みついた。竜は体をひねらせ虎の背中を噛んだ。虎の背から血が流れる。虎は目をむいて苦しみながら、竜をくわえたまま首をふった。竜の首からエメラルドグリーンに輝くウロコが落ちた。
 クロヒトの頭の中に映像がうかぶ。草砥鹿姫たちがいる川の対岸だった。白宮住職が指で法印を組んで呪文をとなえ、海王丸、風王丸、水王丸の3人の鬼が指を2本立てて気合いもろとも虎に向けて振り下ろした。
「うお~」
 虎が人間の声で叫び大津の皇子にもどった。竜がその体を3回り、4回りと巻いた。大津の皇子は顔をしかめ一度閉じた目をカッと見ひらいた。
「わたしが負けるはずはないのだ。私は世界中の悪魔に魂を売り渡し、この国を、天武を、うのささら(後の持統)を、恨んできたのだ。うすっぺらな正義に敗れるようなヤワな恨みではないのだ。
 だが、よかろう。ここで私は敗れようと、私は怨霊でさえなくなってもなお恨み続けよう。この国に恨みの心がある限り、怒りの思いがある限り、そのものに力を貸しともに、暴れてやろう」
 大津の皇子がしぼり出すような声で言う間、草砥鹿姫は石をにぎりしめてうつむいていた。
 言葉が終わると目を開けた。
「ねえ。言いたいことはそれだけ? あんたなんてバカなの? なんてかわいそうなの? あなたの恨み。それがどうしたの。 もうあなたは1300年前に死んだのよ。あの世に行って、みんなとケンカしたらいいじゃない。怒ったらいいじゃない。そしてちゃんと怒ったなら、もう許してあげて。天武天皇もうのささらの皇后も、草壁の皇子も。
 そして、だれより、あなた自身を」
 そう叫んで、青い石を皇子に向かって投げた。石は流れ星のように尾を引いて大津の皇子にあたった。大きな爆発が起こり竜も大津の皇子もあとかたなく消えた。そして、エメラルドグリーンに輝くうろこが空いっぱいに広がり降ってきた。そしてやわらかい風があたりをつつんだ。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:57│Comments(0)
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