2011年07月20日

海の道(仮題)6

 常陸の国の荒瀬を抱き込んだ大津の皇子は、荒瀬の仲間の農民を仲間に入れて深夜のうちに旅だった。常陸から下野、上野、信濃とぬけて日本海側へ出た。途中、馬と鈴がおいてある駅舎はさけて通り、道々食いつめの旅人や農民を味方につけていった。因幡の国に着く頃には従者は50人にのぼった。
 因幡の国に入り、3日目に麻績の王が幽閉されている山寺に着いた。深夜のことである。物音を聞きつけて警備の兵が襲いかかってきた。大津の皇子は一瞬で3人の兵を斬り殺した。そのみごとな刀さばきに見とれる者もいたが、何人かは恐怖に震えた。その者たちを集めて大津の皇子が小さな声で語りかける。
「よいか。これから我は、正義のための戦いをするのだ。当然、変化のためには血が流れる。だが、国を良くするためなのだ。そのためには仲間でも殺すかもしれん。がしかし、もし、ついてきてくれれば、貴族としてとりたてる」
 大津の皇子の言葉についてきた者たちは顔を見合わせてうなずいた。
「何者だ」
 本堂の障子に灯りがともって男が出てきた。刀をぬいてかまえている。大津の皇子もかまえた。50人の男達も鎌や鍬をふりあげた。
「どなたかいらしたかな」
 本堂から大柄の男が出てきた。粗末な麻を身にまとい長いアゴヒゲを胸まで垂らしている。
「麻績の王。ひさしぶりだな」
 大津の皇子が笑って声をかけた。
「大津の皇子さま。ごぶさたしております」
 麻績の王が頭を下げる。いぶかしがる様子はない。どうやら都をぬけだしたことは因幡まで聞こえていないらしい。
「じつは、地方の農地の様子をみようと思っての。この者たちと回って来たんだが、こちらが説明する前に斬りかかってこられて気の毒なことをした」
 大津の皇子は頭を下げた。麻績の王はだまって大津の皇子を見ていた。横から小柄な男が口をはさむ。
「私は、因幡のシロヒトという者。麻績の王様の様子を、都からくる役人に報告する役の者です。私の手の者がたいへん失礼をしました」
 男は麻績の王の代わりに頭を下げた。
 




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:14│Comments(0)
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