2011年08月11日

海の道(仮題)21

 その夜、麻績の王たち6人は鳥居の前で夜を明かせた。大津の皇子が怨霊になって出てくるのを恐れてのことだった。明け方になって、空が白くなってくると香姫が昆布を刈りに岩場へ行った。もどってくると、大きな岩に腰をかけ6人で食べた。
「麻績の王さま。あなたは海人族ではないのに、なんだか仲間のようです」
 村国が遠慮がちに言った。
「この世の命がおしい。そのことでは、海人族も、皇族も関係ない。同じことだよ」
 麻績の王がゆったりと笑った。横で聞いていた因幡のシロヒトが貝殻にそのことばを刻み込む。
「うちそを 麻績の王あまなれや 伊良湖の嶋の玉藻刈りおす」
「うつそみの 命を惜しみ 波に濡れ 伊良湖の島の玉藻かります」

 6人は同じ海風に吹かれた。ずっと昔から知り合いだったような気がした。
「おまえたちのおかげで、たいへんな事態はまぬがれた。このまま、いっしょにいたいが、まもなく騒ぎを聞きつけて朝廷軍が来るだろう。ここでお別れだ」
 麻績の王のことばに、シロヒトが答える。
「謀反を防いだとはいえ、流罪地を抜けだしたことは事実ですね」
 村国が何か言おうとしたのを荒瀬がとめた。麻績の王が言葉を続ける。
「なにも分けてやるものはないが、これを持って行ってくれ」
 麻績の王は手首に巻いていた水晶の腕輪を外してヒモを歯でちぎった。直径1cmほどの水晶玉が転がった。それを一つずつ渡して行った。5人はそれを受け取って船で鯛島をあとにした。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 11:13│Comments(0)
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