2011年08月16日

海の道(仮題)24

 イサミと村国は亀島へもどった。イサミがつらそうにことの次第を告げた。
「おれも、そんな気がしてた。麻績の王さまが鯛島の残るっておっしゃった時、死ぬおつもりだろうなとは思った。だけど、まさか香姫が……。だけどな、これも決まっていたことなんだ。きっと」
 シロヒトがイサミの肩に手をおいた。イサミは海を見つめながら、水晶玉を出した。
「ぼく、絶対、大津の皇子は許さない。死んでも許さない。忘れないために、ぼく、死んだらこの玉を持って生まれ変わってくる」
 イサミは涙をふきもしなかった。
「そう言えば、麻績の王さまが、この玉を持って蓬莱へ行けって言ってたな。北の方を指さしていた」
 村国がぽつりと言った。
「蓬莱かあ。唐にあるんじゃないのか。西の方だろ」
 荒瀬が言った。
「ぼく。昔、父さんに聞いたことがある。日本にも蓬莱があるって。そこに見える山から上陸して4日歩いた山の中だって言ってたと思う」
 イサミが北を指さした。海の向こうに伊良湖岬の先端の山が見えた。
「イサミ。おまえが蓬莱へ行け。そこに麻績の王様と大津の皇子を封じるのだ」
 村国が言って、イサミは大きくうなずいた。
 その時だった。嶋の反対側から男達の声が聞こえてきた。
「謀反人が隠れているぞ~。つかまえろ~」
 声はどんどん近づいてくる。シロヒト、荒瀬、村国は身がまえた。イサミはゆっくりと弓を引いた。
「ますらおの さつやたばさき ひきむすび いるまとかたは みるのさやけし」
 荒瀬が歌を詠んで砂浜に指で書いた。イサミが矢を放つ。矢が飛んでくる。こうして戦いが始まった。そして村国が矢にあたって倒れた。無念そうに空をにらんでから傷口に水晶玉をあてた。次に荒瀬が続いてシロヒト、イサミが倒れた。みな、それぞれキズ口に水晶玉をあてた。水晶玉は消えてキズ口もなくなった。
 男達が4人の遺体を囲むと、遺体は4羽の白鷺に変わった。一羽目が飛び立ち南に向かった。2羽めは東に向かった。3羽目は西に向かった。最後の1羽は北の空へと消えていった。

 1300年以上まえのことである。後の世になって、亀島は神島と呼ばれるようになった。鯛島は江戸時代まであって、鳥居と祠が一つあるだけの無人島だったが安政の大地震で沈んでしまったという。
 あとには、不思議な伝説と麻績の王の歌が残った。万葉集に載っているという。
「うちそを おみのおおきみ あまなれや いらごのしまの たまもかりおす」
「うつそみの いのちをおしみ なみにぬれ いらごのしまの たまもます」




Posted by ひらひらヒーラーズ at 07:29│Comments(0)
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