2011年08月17日

現代へつづく海の道(仮題)1

 白宮和夫はコピー機のメンテナンスの仕事をしている。名古屋のコピーメーカーの下請けで、定期的に会社や学校を回り、機械の清掃と点検をしていく。その日は豊橋の小学校へメンテナンスに行った。仕事を終えて帰ろうとすると、校門の前に子ども達が集まっていた。
「さあ、さあ、ケンカしないで。みんなの分ちゃんとあるよ。ほら、一人一台ね」
 相撲取りのような大男が、似合わない優しい声を出しながらティッシュほどの箱を配っている。
 白宮はちょっと気になりながらも車を出した。運転しながらルームミラーを見た。耳の下に3cmほどのアザがある。学校で報告書にサインをもらうとき、事務員に指摘された。彼女は虫に刺されたかと言い、薬をつけてくれた。魚の形に見えるとも言った。ちょっと笑いがこみあがてきた。
 昼になって、豊川ぞいのそば屋に入った。ニシンそばを頼んで雑誌を読んでいると常連客らしい男と女主人の声が耳に入ってきた。
「荒川さん。もう一回見せて。金魚みたいでかわいい」
「なんだかはずかしいけど。ほんと金魚だよな」
 荒川と呼ばれた男が袖をめくっているらしいのが音で分かった。白宮がふりむくと女主人が微笑んで頭を下げた。「おさわがせしました」と言った感じか。荒川はめくった襟元から肩を出していた。腕の付け根のところに赤いアザが見えた。白宮のと同じぐらいの大きさだった。いや、同じアザと言っていいかも知れない。
 白宮は思わず立ち上がった。
「いきなりすみません。ぼくにも、あるんです」
 白宮は荒川の前に立って耳の下を指さした。
「ああ。ほんとだ。二人とも同じアザだ。アザ兄弟ね」
 そば屋の女主人が明るく笑った。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:51│Comments(0)
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