2011年08月22日

現代へと続く海の道(仮題)6

 白宮は小学校から電話を受けた。コピー機の調子が悪いという。車で走っていたが予定を変更して急いで向かう。お客はコピーは正常に動いて当たり前と思っている。
「遅くなりました。調子悪いですか?」
 白宮はコピー機を開けて点検してみる。どこも悪いところはない。事務員の話では急に電源がとんであとは入らなくなったのだという。
「おかしいですね。いちおう、電源の部品は換えておきましたので、大丈夫だと思います」
 白宮は伝票を出してサインをもらって帰ろうとすると、駐車場に車が入ってきた。ドアには「建築事務所 穂の国」と書いてあっる。どこかで見た名前だと思っていると見覚えのある顔が現れた。前の日にそば屋であった荒川である。
「ああ。この前会ったコピー屋さん。ちょうどよかったいっしょに来てよ」
 荒川は白宮の肩をかるく叩いた。白宮はわけもわからずついていった。校長室につれて行かれ校長先生が入ってきた。
「ああ。あの、この人はぼくの古い友だちです」
 荒川は白宮を右手でしめしながら言った。校長先生はびっくりした顔で白宮を見ている。
「あのう。いつもはコピーの修理でおじゃましていますが、荒川さんとは、あのう、知り合いといいますか、何というか」
 白宮はしどろもどろになった。校長先生は「どうでもいいや」という感じで聞いている。荒川が話をはじめる。
「あのう。さっそくですが、ご提案をさせてもらいます。昨日、校長先生は子どもたちのために校庭を改造してほしいと言われました。そこで、校庭を海にします」
 荒川は自信たっぷりで話し出した。言葉も昨日よりていねいではっきりしている。
「校庭をい海に?」
 校長先生はとまどった顔になった。荒川は言葉を続けた。
「この**小学校は穂の川の河口に近いですし、昔は港があったと聞きました。子ども達の心の奥の方には、今でも大海原があるはずです。それを呼び覚ましたいんです」
 荒川は調子にのった。
「校庭を海に? 水路を掘って川の水を引きますか? それは大変でしょう」
 校長先生はかけていたメガネを外してふいた。
「いえ。海をつくりのは、子どもたちの心の中です。大人が作るのは船です。子どもが船乗りになって遊べる船です」
 荒川はここで一度お茶に手を伸ばした。
「ただ、遊具を作って終わりじゃありません。ボランティアも大勢巻き込んで、ここでイメージの海を楽しみましょう」
 荒川が熱弁をふるって、校長先生も乗り気になったところで荒川と白宮は学校を後にした。
 駐車場で荒川が舌を出した。
「ごめん。びっくりさせたね。君の顔見たら思いついてさ。校庭を海にする話」
「あれっ、思いつきだったんですか?」
 白宮が呆れた顔をした。荒川がうなずいた。
「学校でねえ、去年、少しだけど自由になるお金が出来たんだって。そいで、頼まれたんだ。校長に、なにかおもしろいアイディアないかって。で考えながら来たら君の顔見て、魚のアザ思い出して海を思いついたんだ」
 荒川は子どもみたいな顔をした。

 




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:39│Comments(0)
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