2011年08月23日

現代へ続く海の道(仮題)7

 何日か後、白宮は蒲郡のデザイン事務所にいた。事務所の模様替えにつき合わされているのである。コンピュータ用のプリンターとコピー機が2台置いてある。業務用の精密機械なので場所を動かすと微調整がいる……。という口実でメーカーの営業マンに頼まれて力仕事にやってきた。
「大丈夫かなあ。動かせるだろうか。もう10年も動かしてないが」
 事務所の社長がコピー機のほこりを払った。白宮が車輪のロックを外す。二人で押すと棉ホコリがおどるように出てくる。そこだけ床が真新しい。
「あれっ。新聞ですか? 茶色くなってますね」
 白宮が変色した新聞を拾った。10年前の日付が見える。
「10年前か、おれが独立したときだな」
 社長はなつかしそうに新聞を手にした。下の方に小さな記事がある。「伊勢湾の小島からシルクロードの財宝」と見出しがある。白宮は伊勢湾と言うところが気に掛かった。社長に見せてもらうとこんな記事だった。伊勢湾の神島から古墳時代の銅鏡が60枚見つかったとのことだった。当時はまだ日本の青銅技術の未発達で、シルクロードを通じてペルシャやトルコから運ばれたものらしく、鳥羽に面した砂浜で小学生が偶然見つけて学校の先生に知らせたらしい。
 白宮は社長に頼んで記事の部分をコピーさせてもらった。
「あれっ。白宮さん、歴史なんか興味あったの?」 
 社長は意外そうな顔をした。白宮は自分でもよく分からずにうなずいた。耳の下の赤いアザが震えた気がした。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:22│Comments(0)
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