2011年09月08日

現代へと続く海の道(仮題)17 香坂の部屋

 大男は香坂のマンション前につくとちょっと馬鹿にした目をした。
「あんた。ほんとに神様と話せるのか? もしかして、おれをからかっているんじゃないのか」
 言われた香坂は視線を一度視線を泳がせてからじっと見すえた。
「どう考えるかは、あなたしだいね。確かに、思い通りに霊を呼び出せないこともあるわね。でも、あなたは私とお金をかせいだのよ。悪いことをして」
 香坂はじっと大男を見た。大男はうつむいてから答えた。
「悪かったよ。あんたに従う。ああそうだ。この前あんたが言ってた。聞こえない音を出すチップな、できたぞ。聞いてみるか」
 大男はごまかすようにポケットから、名刺くらいのカードを出した。スイッチを入れる。何も音は聞こえないが頭の芯が熱くなってくる。底なし沼に落ちていくように気分が沈んで行って意識が遠のいて行った。
「きくだろう」
 大男の声を遠くで聞いた香坂は我に帰った。大男がスイッチを切ったらしい。気がつくと大男の顔が目の前にあった。
「超低周波で催眠のセリフが入れてある。これで知らぬ間に眠らせるんだ。完全に寝ているわけじゃない。シータ波という状態だ。ここで指示を出せば、人を自由に操れる」
 大男はイヤな笑いを浮かべてうなずいた。香坂は瞬きも出来ずに大男を見送った。
 部屋にもどって着替えていると、後ろに気配を感じた。ふり向いて声を上げそうになった。大津の皇子が立っていたのである。
「すまなかった。私は遠い昔、鳳来に封じられたのだ。白い鳥に運ばれて眠りについたのだ。1月ほど前、大きく体が揺れて目をさましたが、今度は私の魂がない。私はどこなのだ」
 大津の皇子はすがるような目をした。香坂の胸が熱くなった。なんとかしてやりたい思いがわき上がってどうすることもできなくなった。
「あなたは、いったい、何に封じ込められているの」
「水晶の勾玉だ。あいつとの荒御霊といっしょに」
 大津の皇子は少し苦しそうだった。下半身が透き通りはじめている。香坂はその肩を抱いた。
「あいつって、誰なの」
 香坂が聞くと大津の皇子は口を開いた。
「お……」
 その先は聞き取れないまま大津の皇子は消えた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:23│Comments(0)
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