2011年10月21日

現代へと続く海の道(仮題)48

「ほんとにいいんですか?」
 白宮は飛び跳ねるように神主についていった。神主は桐の箱を持って出てきた。紫色のヒモを解いて綿をとると青緑色にさびた銅鏡が出てきた。神主は手に白い布をかぶせて手袋のかわりにして持ち上げた。まん中は丸く盛りあがり縁には獣が四つ浮かび上がっている。三人はため息をついた。
「この四匹の獣は、四神と言いましてな。四つの方位をあらわします。この、亀の姿で首がヘビなのが玄武、北を守っています。東が青龍、南が朱雀、これは火の鳥ですな。で西は白虎。国を護る地の神なんです」
 白宮は説明を聞きながら見ているうちに、なんだかまん中の盛り上がりが島に見えてきた。
「ふしぎなんですが、ここが島に見えます」
 白宮はぽつりと言った。神主は白宮の顔を見て微笑んだ。そして、小さな声で言った。
「あなたは、いったい何をご存じなんですか?」
 言われた白宮はあわてた。自分がへんなことを言って気を悪くされたかと思ったのである。
「すみません。いや、ただ、そう思っただけで」
 白宮があやまるのを神主が止めた。
「いえ、怒っているのではありません。むしろうれしいというか、私と同じ考えなのです」
 今度は白宮がびっくりする番だった。ほかの三人ものぞきこんだいる。神主が続けた。
「この銅鏡は、一三年前に、砂浜で偶然発見されました。いつの時代か何者かが埋めたんでしょう。たぶん、当時は砂浜ではなかったんでしょうな。波で陸地が後退して波打ち際になって出てきたんだと思われます。誰が埋めたのか、どういうわけでそこに埋めたのかも分かりません。東京からも学者が来て調べて行きました。一年ほどして、三重の教育委員会を通して研究成果が発表になりました」
 ここで荒川が口をはさんだ。
「どんな研究なんですか?」
「それがまあ、ばかばかしいというか、あたりまえすぎるというか。ここ神島は昔から伊勢へ向かう海の玄関口になっていました。ですから、伊勢神宮への道中安全を祈って銅鏡を埋めたと言うんです。その銅鏡も正倉院にあるものを真似たコピー品であるということなんです」
 神主は笑いをうかべてから四人を見た。白宮はじっと目を閉じて聞いていた。そして、目をあけるとゆっくりしゃべり出した。
「この近くに、昔、島がありましたか? 小さな無人島です」
 荒川と勇人はそんな白宮をふしぎそうに見ている。顔色が変わったのは、神主と鬼村だった。
「江戸時代に地震で沈んだ島があります。鯛島といいますが、確かに無人島でした。小さな神社というか古墳があったと伝えられています」
 二人は白宮の顔をのぞきこんだ。
「こんなこと、はじめてなんですが、頭の中に映像が浮かぶんです。沈みはじめた村から鏡を運んでいます」
 白宮は助けを求めるように、他の三人を見た。
「たぶん。この前の水晶玉のせいで、白宮さん、なにかが見えるようになったんだ」
 荒川は水晶玉のことを説明した。
「鯛島って、どの辺にあったんですか?」
 白宮が聞いた。
「この島の南です。島のあったあたりを見渡せる場所があります。行きましょう」
 神主が行って、五人は神社の裏手の山へと入っていった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:20│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。