2011年11月04日

現代へと続く海の道(仮題)60

「だいじょうぶですか?」
 遠くで名前を呼ぶ声がする。渦に巻かれるように回転して、どこかへ落ちていった。底の方に見慣れた自分の体が横たわっている。じゃあここで見ている自分は誰なのか。そう思った瞬間に横たわっている「体」に吸いこまれて暗いトンネルを通ると、急に全身が重くなって目を開けた。
「ああ。よかった。目をさまされた」
 勇人の担任が、教科書をだいたままでのぞきこんでいた。屋上へとつづく階段の踊り場だった。
「ぼく、ここに倒れていたんですよね」
 白宮はまわりを見まわした。左手に携帯電話、右手には水晶玉をにぎっている。横には早川のゲーム機が落ちていた。
「職員室から教室へ向かおうとして通りかかったら、何か船が見える気がして来てみたんです」
 先生はまだ心配そうに足元から頭の先まで白宮を見ている。
「すみません。ちょっと睡眠不足でした」
 白宮が笑って答えた時、階段を上ってくる音がして荒川が現れた。
「白宮さん。だいじょうぶか? 心配して学校中さがしたぞ」
 荒川は先生に頭を下げてから言った。
「すみません。心配かけました」
 白宮は答えて、二人で船に向かった。
「荒川さん。実はさっき、勇人くんが早川くんたちに取り囲まれていて、どうも、勇人君は殴られていたみたいなんです」
 船に着いてから、白宮が言った。荒川は途中から興奮して身をのりだした。そんな自分をなんとか落ちつかせて聞き返してくる。
「最近、そんな騒ぎはなかったから、安心してたんだけど、何があったんだ」
 白宮はちょっと体を引き気味にして答える。
「それが、後から思うんですけど、どうも、勇人くんからきっかけを作ったんじゃないかと思うんです」
「それ。どういうこと?」
 荒川はちょっと大きな声になった。
「あのう。事件の前に、勇人君、ぼくのところへ来たんです。で、荒川さんとかぼくとか、弓の師匠とか大人がみんな、勇人くんのために動いてくれるけど、早川くんのことでも動いてくれますか? って聞いたんです。『もちろん、大人として出来ることはする』
と答えたんです。で、そのあと、勇人くんが殴られていたんです」
「それで、白宮さんが気を失ったわけ?」
 荒川は首をかしげた。
「そうじゃありませんよ。勇人と早川たちがいなくなってから、このゲームを見つたんです」
 白宮はゲームの映像をメッセージ、そのあとき気を失ったことを説明した。
 荒川はうなずいてゲーム機を手にした。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:19│Comments(0)
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