2011年11月06日

現代へと続く海の道(仮題)62 香坂の部屋

 **小学校近くの占い館「香姫の部屋」である。大男と香坂がテーブルをはさんで話している。
「最近、ゲームの方はさっぱり売れなくなったな」
 大男はテーブルに両肘をついて首筋をかいた。
「ストーリーはおもしろいのにね」
 香坂はぞくりとするような目をした。
「香坂さん。毎週、あんたが考えているんだよな」
「そう。一人でいるとねえ、大津の皇子が現れて『おれの恨みの記憶を箱に閉じこめろ』って言いながら話していくことを、私が書き留めるの」
 言いながら、香坂は大男を見た。誘うような目だった。うろたえる大男の肩に手を伸ばす。大男はここではじめて笑いを浮かべて香坂に体を寄せた。香坂が大男を引き寄せた。おたがい息がかかるくらい近づいたところで、ドアがノックされた。
「はい。どなた」
 香坂は体を離して、背筋をのばした。大男は奥へひっこんだ。香坂がドアを開けると背広の男が立っていた。
「はじめまして、**署の村尾といいます。まあ、ひらたく言えば刑事です」
 男は名刺を出した。
「なにか、ありました?」
 香坂は平然と答えた。
「いや、まあ、事件といいますか。はっきりしていないんですが、まあ、参考までに聞きたいことがありましてねえ。このあたりの家は一軒ずつ回っておるわけです」
 言いながら、視線は香坂から離さない。これは明らか疑っていると香坂は感じた。
「まあ。どんな事件ですの?」
 香坂はじっと村尾を見かえした。
「じつは、先月、一人の男が交通事故にあいまして入院しました。コピーの修理屋なんですが、どうも不思議な事故でしてね。見通しの悪いところでもないし、お酒を飲んでいたのでもない。もう一件は石巻の設計士なんですが放火をされました。こちらもそう人に恨まれていたのでもなし、おかしいなあと思ったわけです。まあ、私が個人的にですがね」
 村尾はここではじめて視線をはずして、部屋の中を見まわした。香坂は平然としている。
「でも、なんでこのあたりの家を回るんですか?」
「それが、この二人の被害者、二人とも**小学校へ出入りしているんです。なんでも船をつくっているらしいんですが……」
 村尾が言いながら部屋の奥の方へ目を向けた。
「誰かいるんですか?」
 村尾の目が光った。香坂はここではじめて視線を泳がせた。





Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:56│Comments(0)
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