2011年11月19日

現代へと続く海の道(仮題)71

 **小学校へ着くまで、勇人は黙っていた。学校の横に車を止めると、職員室の明かりが見えた。
「なあ、勇人君。早川くんのこと、もう少し話してくれないかなあ」
 白宮は後部座先をふりかえった。勇人は助手席の背もたれを抱えるように話し出した。
「直人と最初に会ったのは、幼稚園の年長の時です。ぼくのお父さんが死んで、母さんと二人で引っ越してきたときに、直人のお母さんとぼくの母さんが友だちになりました。直人のお母さんはいつも家にいたから、母さんの帰りが遅い日はいつも直人の家によって待ってました。そのころは、直人のお母さんもぼくのこと直人と同じように大事にしてくれました。よく、晩ご飯までよばれてました。日曜日は、直人のお父さんにつりに連れて行ってもらったこともありました」
 勇人は大事そうに思い出を語った。
「家族ぐるみのつきあいだったわけだ。それで早川君が、塾に行くようになって変わっていったのか」
 白宮が口をはさんだ。
「それだけじゃありません。直人のお父さんが大変になったんです。会社の社長だったんですが、悪い人にだまされたとかで、会社がつぶれました。すぐに勤めはじめたみたいで、引っ越したりもしなかったんですが、そのころから、お父さんが直人に勉強しろと強く言うようになりました。ぼくが遊びに行くのもいい顔しなくなりました」
 勇人はそこまで言うと、白宮を見て頭を下げた。
「子どもってたいへんだよな。大人の都合で傷ついても、自分で立ち直るしかないもんな」
 白宮がしみじみと言ったところで、荒川の車が止まった。助手席に勇人の弓道の師匠が乗っている。
「白宮さん。社長に勇人君をまかせて、俺たちで先生と話してこようか」
 荒川は白宮の車の横に立って言った。白宮は車を降り、勇人を荒川の車に乗せて職員室へ向かった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:04│Comments(0)
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