2011年12月08日

現代へと続く海の道(仮題)85 決戦の時

 白宮たちは、暗闇から船を注視していた。船の中から時々雷のような怪しい光がもれると白宮と荒川は飛び出そうとする。そのたびに村尾が止めた。どのくらい時間がたっただろうか。子どもの声がして船がゆれた時にやっと村尾が動き出した。そうなれば早い、三人で船に走り込んだ。ライトを持っているのは村尾だけで、荒川と白宮は携帯電話のディスプレーを明かりにして入った。明かりはほとんどない。物音もしない。
「勇人君。無事だったか」
 村尾の声がして、白宮と荒川が近寄ると勇人がしゃがみこんでいるのが見えた。その前に女が倒れている。香坂だった。
「香坂。勇人君になにをした」
 白宮が叫んだ。香坂は目を開けない。代わりに聞いたことのない子どもの声がした。
「お母さんを責めないで。因幡のシロヒト!」
 白宮は驚いてふりむいた。村尾の照らすライトの中に男の子が立っていた。粗末な朝の着物は膝までしかなく、腰を荒縄で縛って帯の替わりにしている。年は五才くらいだろうか。手には弓を持っていた。
「鯛島のイサミ」
 思わず、白宮の口から言葉が出た。そして、照らされているライトが揺れだして松明に代わった。村尾は着物の尻をはしょって鉢巻をしている。荒川も着古した着物姿だった。驚いて自分の服を見ると黒い中国風のものに代わっていた。それがなぜか不思議ではない。手足を見まわしてからゆっくりうなずいた。
「やっと、思い出したな。因幡のシロヒト」
 荒川は白宮の肩をたたいた。外から吹き込んでくる風は潮のにおいがした。
「ふふふ。やっとこの時が来たな」
 地震のような揺れとともに声がひびいて、香坂の手のあたりで何かが強く光った。五つの水晶玉が光って勾玉が火を噴いた。その炎の中から、大津の皇子が現れた。長い刀をぬいてイヤな笑いを浮かべている。
 因幡のシロヒトに代わった白宮が刀を抜いた。正面にかまえる。大津の皇子が振り下ろす刀をかわして斜め後ろからから斬りつける。肩を切られた大津の皇子は外へと逃げた。シロヒト達があとを追うと、学校の校庭だったはずの船のまわりは大海原が広がっていた。まっくらな中に黒い波が寄せてくる。村尾が松明で照らすと手追いの大津の皇子が泳いで逃げていく、その先に一隻の船が現れ大津の皇子を乗せた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:55│Comments(0)
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