2011年12月15日

現代へと続く海の道(仮題)90 次で完結!

 麻績の王は海の上をすべるように移動し船に乗った。波は収まり辺りはすっかり明るくなった。ぼんやりとかすむ空気の向こうに小さな島が見えてきた。でも、イサミ以外の三人の目は麻績の王から離れない。イサミ一人は香姫が沈んで行った海をのぞきこんでいる。
「麻績の王さま」
 シロヒトが震える声で言った。
「あのときの、千三百年前のままのお姿でいらっしゃる」
 村雄は涙声だった。荒瀬は目をこすっていて何も言えないらしい。
「麻績の王さま。母さんを、香姫を助けて」
 イサミがすがるような目をした。麻績の王はじっとイサミを見てから口を開いた。
「香姫はなあ、ああすることで、千三百年の時を埋めているんだ。大津の皇子を天界に導けるのは香姫だけなんだよ」
 麻績の王はやさしく言った。それでもイサミは納得しない。
「大津の皇子なんか、天界へ昇らなくていいんだ。父さんをだまして死なせたやつじゃないか」
 イサミがいきりたって、村雄が止めた。麻績の王はゆったり笑っている。
「イサミ。おぼえているか。大津の皇子がおまえの父さんとそっくりだったことを。香姫まで間違えるほどそっくりだった。あれはなあ、偶然ではないのだ。魂の双子だったのだ。そして、おまえの父親は都で処刑されて先に天界へ行ったが、大津の皇子は強い恨みと執着で地を離れることが出来なかった。それゆえ、私が抑えて、いっしょに勾玉に入ったのだ」
 麻績の王はイサミの手を引いて船べりに行き海面を指差した。イサミは海を見た。
「この船を作った杉の木が、勾玉をつつんでいた木だったな」
 荒瀬がぽつりと言った。
「千三百年かあ。長いような短いような」
 村雄が苦笑いを浮かべた。
「だがな、それも幻。おまえたちは、千三百年すぎた今を生きよ。それぞれ自分らしくな」
 麻績の王は羽の生えたトラに姿をかえて空に舞い上がった。村雄が、荒瀬が、シロヒトが海に飛び込んで泳ぎだした。イサミもあわてて後をおって四人は島に泳ぎ着いた。
 朝日がさっきまで乗っていた船にあたった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 00:36│Comments(0)
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