2012年01月18日

青い炎を燃やせ7

「光明子さま。ご無事でしたか?」
 椿は明江の顔を見るとうやうやしく頭をさげた。
「光明子?」
 明江は椿の顔を見た。椿はまじめな顔をしている。
「さあ、早くしましょう。いつまでもここにいると、いつ崩れてくるかも知れません」
 横から男が口をはさみ、明江の手を引いて外に出た。椿もあとから出てくる。
「あれっ。どうなってんの?」
 外に出てまぶしさがおさまると、明江はつぶやいた。さっきまでいた奈良なら館がない。かわりに土を盛った小山があった。木で組んだ足場があって、腰にボロ布を巻いた男たちがもっこを担いだりして歩きまわっている。まわりは草原が広がってその向こうに平城宮の清涼殿が見える。
「あなたは、舎人の皇子さま」
 通りかかった役人が椿を見て頭をさげた。椿は軽く右手を上げて答えた。
「舎人の皇子?」
 明江は口の中で繰り返した。歴史で習った日本書記を思い出した。天武の皇子で、日本書紀の編者の舎人の皇子? 頭の中で歴史ワードがくるくる回った。そして、まわりは見たこともない景色。いや、見たことがないわけじゃない。椿とエレベーターに乗る前、模型で見た景色、それ今本物で目の前にあるのだ。
「舎人の皇子。どういうことです。なにがあったのです」
 明江の口からまた意図しない言葉が出た。明江はわけも分からず喉を押さえた。
「藤原の宇合さまの軍勢が突然、長屋様お邸を襲ったんです」
 男がつらそうに言った。
「間に合わなかったんですね。青い炎さえあれば」
 明江の口はまた不思議なことをつぶやいた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:27│Comments(0)
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