2012年03月02日

青い炎を灯せ34

 皇后になって一番大きな違いは、朝の会議に出るようになったことだった。夜明け前に女官達が現れて身支度をさせられ天皇より先に大極殿へとあがる。そこには長屋王をはじめ、舎人の親王、藤原宇合たちの大臣がならび外に近くなるほど下級の官人達がならんでいる。明江が玉座の横に座ると群臣たちは頭を下げた。続いて天皇が玉座につくと皆頭を深くさげてあと座った。
「本日の議題ですが、二つございます」
 宇合が進み出て紙を広げて読み上げる。
「唐へ使わしておりました者たちが、昨日、難波津にもどりました。そのものたちが、唐の僧を何人か連れてまいりました。このものたちに寺を建てたいと思います」
 宇合はそこまでいうと、うやうやしく頭を下げた。舎人の親王が顔をほころばせた。
「それはけっこうなことです。いかがでしょうな。薬師寺の向かい側に私の親戚が昔屋敷を建てていた場所が空いております。まずはそこに宿坊を建て、僧達を住ませましょう。広い土地が空いております。僧達の知恵を借りて、唐の都に負けないような寺を建てたらよろしいかと」
 舎人の親王は笑顔を天皇に向けた。天皇はうれしそうにうなずいた。これが宇合を調子づかせる。
「唐から招いた僧を置くのですから『唐招提寺』などいかがな名でしょう」
 群臣たちはうなずいた。笑顔で拍手さえするものもいた。ただ、長屋王だけが腕を組んでだまっている。
「左大臣、長屋王。どうした。なにか意見でもあるのか」
 天皇が声をかけると、長屋王は静かに話し始めた。
「たしかに、唐の文化はすばらしい。僧侶たちも十分にもてなす必要があるでしょう。ですが、国の民が飢えで苦しんでいるときに、大きな寺を建てるのはいかがなものでしょう。僧侶たちの住居なら、私の屋敷の部屋を使っていただければいい」
 この言葉で、群臣達は静かになった。宇合はうつむいてだまってしまった。
「長屋王のいうことはもっともではあるが、今、この国は唐の都に負けないものにしたい。寺は建てようぞ」
 天皇がいって、その話は終わり、次の議題にうつった。これは大した反対もでず、朝の会議は終わった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:12│Comments(0)
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