2012年03月20日

青い炎を灯せ45

 明江はぼーっとしていた。頭の中には先ほどの光景がグルグルと回っていく。いったい誰の声なんだろう。なんのために竜巻を起こしたんだろう。いろんな疑問がシャボン玉みたいに浮かんで消えた。そんな時間がどれくらいたっただろう。女官が遠慮がちに顔を出した。
「皇后様。舎人の親王さまおいでです」
 女官の言葉に明江はわれに帰って、うなずいた。一度視界から女官が消えて舎人の親王とともにもどってきた。
「皇后様。おめでとうございます。さすがはお兄さまですな。いつもは口が悪くても皇后様にお子さまが出来ればやはり、うれしいと見える。それにしても、思い切りましたな。藤原氏の氏寺を立てようとは」
 舎人の親王は満面の笑顔である。
「氏寺? 唐から来るお坊さんを迎えるお寺じゃなくて?」
 明江の顔がくもる。舎人の親王はマユをあげて自分の口をおさえた。しまったと言う心持ちか、あわてて言葉をつないだ。
「ああのう。ご存じなかったですか。飛ぶ火野の西、猿沢の池の北側です」
 明江はうなずいた。21世紀に興福寺が建っていたところを思い出した。そうか、あのお寺はこのタイミングで建ったんだ。心の中でうなずきながら、前に三河丸が言っていたことを思い出した。民達はぎりぎりの生活をしているのだ。実際飢え死にしている人たちもいるのに、子どもが生まれたお祝いに大きな寺を建てるとはどうにもおかしい。
「舎人の親王。天子様が帰ってきたら私から話しますが、兄の宇合はすぐに呼んで。話がある」
 明江は強い口調で言った。舎人の親王はあわてて清涼殿を出て大した時間をおかずに宇合ともどってきた。
「ねえ、宇合兄さん。猿沢の池の北にお寺を建てるってほんとう? 私に子どもが出来たお祝い?」
 明江はつめよった。宇合はたじろいで一歩さがった。
「光明子。まあ聞いてくれ。おまえのお腹の子どもは、藤原氏の血を引いて天皇になるんだぞ。今の天子様も藤原だし、二代続いて藤原の天皇がでれば、おれたちの立場は……」
 宇合が答えている途中で明江がほえた。
「いいかげんにしてよね。私はあなたたちのために子どもを産むんじゃないの」
 その剣幕に、宇合も舎人の親王もにげだしていった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 19:46│Comments(0)
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