2012年03月21日

青い炎を灯せ46

 一人になった明江は清涼殿をぬけだし法華寺へ向かった。その途中、何人か貧しい人たちとすれ違った。炊き出しや蒸気風呂で感謝しているのか、みな明江に深く頭をさげていく。だんだんいたたまれなくなってくる。この人達の命と明江のお腹に宿った命と重さにちがいがあるはずがない。思うほどに宇合の顔が目に浮かんでくる。そんな思いの中で法華寺についた。
「皇后様。おめでとうございます」
 年かさの尼さんが遠くから見つけて笑顔を向けた。法華寺の前にはあいかわらず病んだ人たちの列があった。
「ごくろうさまです。みんな早くよくなるといいですね」
 明江が頭を下げると、尼は顔をくもらせた。
「こうして、お粥を出したり、お風呂に入っていただくのも、今日までです」
 尼は申し訳なさそうに頭を下げた。
「なにかあったのですか?」
 明江が口を開くと尼は言いにくそうに話し出す。
「昨日。右大臣の宇合さまがおいでになりました。なんでも、猿沢の池の近くに大きなお寺を建てられるとかで、お金がいるから、炊き出しに使っているお金を回せと言ってこられました」
 そこまで聞いて、明江の顔が赤くなってきた。怒りがこみ上げてきたのである。あわてて走り出そうとするのを先ほどの尼がとめて、近くにいた尼を呼び輿を作らせた。
「皇后様。大事なお体無理をなさってはいけません。どちらへお行きになるおつもりですか?」
「薬師寺に天子様がいらしています。いって話してきます。皆さんはどうか心配せずに、明日の炊き出しも準備してください」
 明江はそう言うと、輿をささえる男達に指示して薬師寺へ向かった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:04│Comments(0)
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