2012年04月12日

青い炎を灯せ56

 男達は体中汗まみれになりながら穴を掘り、土を運んだ。出来上がったくぼみは夕方頃には水がたまり池になってきた。
「明日からは、水路を造りましょう。蜘蛛の巣の縦糸のように太い水のみちを作り、そこから必要な畑に水を引いていけばいい」
 天皇は顔のドロをぬぐいながら、小石で地面に絵をかい描いた。男達がまわりに集まってくる。みなの顔を見回している天皇は子どものようだった。明江はちょっとうれしくなった。そして、これが本当の顔だろうなと思った。
 男達は、僧形の天皇にそれとは知らず頭を下げて帰っていく。中には野菜の手渡していく者もいた。お礼のつもりだろうか。男達が帰り、天皇と明江、それに明江のお付きの男だけになったところで、明江は天皇のそばにいった。
「がんばったじゃない。いい仕事してましたよ。それで、明日もここにくるの?」
 明江が聞くと、編み笠をかぶった天皇が小さく頭をさげた。
「信楽の宇合たちは心配しない? 行幸に行くことにしてある?」
 明江はそこだけ確認してから、お付きの男に声をかけた。
「申し訳ないけど、誰か三河丸をさがして、こちらの旅のお坊さんの泊まるところを手配してあげて」
 それから、明江は輿にのり清涼殿へ向かった。天皇がこっそりぬけだして水路を造っている。それに誰も気づかず、天皇自身も輝いている。そんなことを思うとなぜか21世紀を思い出した。この世界にいるのもいいかなあと思い始めた。夕陽が背中を照らし、重くなり始めたお腹が少し動いた気がした。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 06:30│Comments(0)
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