2012年04月15日

青い炎を灯せ58

 明江の腹が締め付けられるように痛くなった。うずくまると、頭のすぐ後ろで声がする。
「苦しめ。苦しめ。未来からの侵入者。おまえがいると、私の思いが消えてしまう。苦しめ苦しめ」
 地鳴りのように頭のしんから声がしてくる。
「私は好きでこの時代に来たんじゃない。私だって帰りたいわよ。そんなにじゃまなら21世紀に返してよ」
 明江は押さえながら声を絞り出した。意識がすこしずつ遠のいていく。消えていく視界の中で金色のものが見えた。手に薬つぼをもっている。
「生きるのです。ここで生きるのです」
 その金色の何かは確かにそういった。明江は気を失った。
 どのくらいたっただろう。21世紀の友だちに会った。帰ってきたと思った。お腹に手をやる。お腹がない。どうしたんだろう。体がない。どうしよう。私は死んだんだろうか。黄色のものがまわっている。私はだれなんだろう。ここはどこなんだろう。
「皇后様~」
 遠くで声が聞えた。どんどん近づいてくる。
「皇后様。そんなにお腹を押さえてはいけません」
 女官の聞きなれてた声だった。目をあけると、すぐ前に女官がいた。青い顔でのぞきこんでいる。
「皇后様。だいじょうぶでしたか?」
 女官に言われて見ると、長屋王からの手紙と棕櫚の人形が落ちていた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:03│Comments(0)
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