2012年05月24日

青い炎を灯せ82

 明江は行基と粘土の仏様の前にいった。なんだかほほえみかけられている気がする。
「行基さん。天子様はいつ帰っていらっしゃるの?」
 誰が聞いているかも知れないので、あえてそんな言い方をした。編み笠がちょっとゆれた。
「私には2週間ほどだとおっしゃいました。鈴鹿に寄ったあと伊勢を回って帰られるそうです」
 その言い方はつらそうだった。明江にはいたいほど気持ちが分かる。行基は天皇になどもどりたくないのだろう。宇合をはじめとして群臣達は勝手なことをするし、国中は疫病が流行っている。権限はないのに責任ばかり取らされることに疲れている。
「行基。天子様はたいへんだよね。あなたは行基でよかったね。がんばって大仏つくってね」
 明江は行基の手を両手でにぎった。行基は編み笠の中で笑う。
「皇后様。この粘土の仏様を土で覆って、すき間を作りそこに銅を溶かして流します。ちょうどいいことに銅山も今年10年目を迎えて出土量も増えてきたと聞きました」
「楽しみにしています。国のため、民のため、がんばってください」
 明江は言いながら、キラキラ輝く仏像を想像した。21世紀に東大寺で見た大仏は黒かったが出来上がったばかりの大仏はどんなにきれいだろうと思った。

 明江はその夜は信楽に泊まり、あくる朝平城京へもどっていった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 07:59│Comments(0)
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