2012年05月28日

青い炎を灯せ84

 明江は清涼殿にもどると横になった。信楽で行基になった天皇に会ったことを思い出した。いつになく元気な顔、そして、飛び火野で人たちの顔に重なった。大きな仏様を作ってみんなに拝んでもらいたい。都にいる者に限らず、みんなが仏にふれる機会があればいいと思った。今度天皇に会ったら国分寺を提案してみようと思った。
 安心して眠ったはずなのに、夢の中には大津の皇子が現れた。
「寺だ? 仏だ? 笑わせるな。そんなもので、国が守れると思うなよ。一日の半分以上は夜なのだ。闇なのだ。は~はっはっは~」
 明江はその恐ろしい顔をにらみ続けた。やがて、怒りにゆがんだ顔はゆるまり別の顔になっていく。そしてなんと長屋王にかわった。ゆったりと微笑んでいる。
「長屋王なの? 大津の皇子じゃないの?」
 明江が叫ぶと長屋王の顔から微笑みが消えた。能面のような無表情で見下ろしている。こうして見ると長屋王は大津の皇子に似ていると改めて思った。血筋で言えば当然で、長屋王は大津の皇子の甥にあたる。天武天皇の血を引いているのだ。そう思うと、長屋王の無表情が急に気味悪く見えてきた。
「長屋王。あなたはほんとに国のことだけを思っているの?」
 明江のしぼりだすような声に答えるかわりに、長屋王の姿がゆっくりと消えていった。
 明江は目をさますと、体中汗をかいていた。

 朝になり、着がえをすませると長屋王の邸に向かった。信楽に遷都したとはいえ、長屋王や宇合たち重臣は信楽と平城京を行き来していた。かなりの確率で会えるのだ。
 運良く? 長屋王は邸にいた。
「これは皇后様。信楽へでかけられたと聞きました」
 長屋王は深く頭を下げた。そんな態度さえも、今の明江にはなんだか空々しく見えた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:47│Comments(0)
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