2012年05月29日

青い炎を灯せ85

 いつになく、長屋王の顔が冷たく見えた。あんな夢を見たせいだろうか。明江は一度視線をそらした。
「行基は人気があるようです」
 長屋王はひらべったい言い方をした。それが明江をいらつかせた。
「長屋王。なにが言いたいの?」
「私はただ、天子様がいい気持ちになりすぎはしないかと」
 長屋王はそこで言葉をきった。
「あなたってねえ、私が皇后になるのも反対したよね。今度のことだって、宇合兄さんの方がよほど話がわかるわ」
 明江が大声をあげると、長屋王は明江を見た。深い海のような澄んだひとみが、今はバカにされているようで腹が立ってくる。
「ねえ、どうしてそんなふうに、人を見下ろすの? あなたから見たら、みんながバカに見えるんでしょ。私も天子様も」
 明江はいきりたった。なんだか自分でもやつあたりのような気がする。長屋王がもっと深いところで何かを感じているのは分かるのに……。
「私は天子様も皇后様も大切に思っております。ただ、私の方が少しばかり長く生きておりますので、よけいなところに目がいくのかも知れません。お許しください」
 長屋王は言いながら頭を下げた。あいかわらず表情は変わらない。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:06│Comments(0)
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