2012年05月30日

青い炎を灯せ86

 長屋王の目を見ているうちに、明江は何も言えなくなった。心の中では国分寺のことが回っている。長屋王に話せばまた反対されると思った。
 明江の心を見透かすように長屋王は明江の目を見た。
「皇后様。私はなんでも頭から反対するつもりはありません。どうぞ、思いをお話しください」
 長屋王は明江から目を離さない。明江は観念した。
「じゃあ言います。日本中にお寺を造りたいんです。この都や藤原京にはいくつものお寺があって、仏様にあうことができますが、一歩外に出ると仏様の愛にふれることが出来ません。私はこの国中の人たちに仏様の愛を感じてほしいんです」
 明江が言う間、長屋王は瞬きもせずにいた。そしてゆっくり口を開いた。
「私も同じことを思っていました。仏像だけでなく、行基のような僧を送り出して各国で人々の心を豊かにしたい」
 長屋王の言葉に、明江は目を見はった。長屋王は反対すると思いこんでいたのに、なんだか拍子ぬけしてしまう。
「でも、国は今たいへんな所なんでしょう。飢えに苦しむ人がたくさんいて、ひどい病気が流行っているんでしょう」
 明江の方がそんなことを言った。長屋王はゆっくりうなずいた。
「そうです。だからこそ、国中に寺を建て、行基のような僧を派遣するのです。私も皇后様が法華寺で炊きだしや風呂治療をはじめるまで、寺はただ国を護るためだけのものだと思っていました。今は違います。寺を建てて人々の心から暖めて行きましょう」
 長屋王の言ったことに明江はうれしく思いながら、何か心が晴れない気がした。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 11:08│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。