2012年07月18日

青い炎を灯せ100

 少年は明江と目を合わせず一気にしゃべった。明かに体を固くしているのが分かる。隣の少年は膝に置いた手が震えている。
「そうか。なんで呪っているって分かるの?」
 明江はつとめて冷静に言った。
「毎朝、天子様の絵が描かれた掛け軸の前で呪文を唱えていました。すごい怖い顔でした」
 少年はそこまで言って下を向いた。
「ねえ、長屋王が唱えていた呪文、おぼえていたらここにかいてくれる?」
 明江は古い木簡を出した。少年は思い出しながら筆で三行ほど書いた。明江には読めない字だった。
「この呪文が呪いのものだって、あなたにはどうして分かるの」
 明江は隣の少年を見た。少年は小さな声で答えはじめる。
「ぼくたち、仏様の呪文は知りません。ただ毎月聞いていたので、音だけはおぼえていました。右大臣のお邸で聞かれ、意味の分からずに書いたら右大臣が騒ぎ出して『謀反』ということになりました」
 明江はゆっくりうなずいた。それから穏やかに微笑んで口を開いた。
「それで、右大臣からはなんて言われたの」
「『ちゃんと、証言すれば、生まれた国へ返してやる』と言われました」
 これを明江は笑顔で聞いた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:14│Comments(0)
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