2012年07月23日

青い炎を灯せ103

 天皇はあわてて、左大臣、右大臣、以下朝廷の重要ポストを任命していった。明江は気力を失って部屋にこもった。長屋王を追いこんでしまったのは自分だった気がしてくる。これまで宇合のせいにしてきたが、今となってみると、宇合を使って自分がしたことに思えてきた。
 ただただ不器用に天皇と国を思ってきた長屋王。自分の財産を天皇の物として大切に蓄え、命が危なくなれば前もって法華寺へ運ばせていた人物。それを個人的な感情で一族もろとも死に追いやってしまった自分。
 明江は頭を抱えた。体も心もかたまり風が吹いてくるのさえ感じなくなった。軽い目眩を感じて床に倒れ込むとそのまま眠った。

「はっはっはっは~。光明子。よくやった。よくぞ逆臣どもを地獄に送ってくれた」
 暗闇から声がひびいてきて、ぽっかりとどす黒い顔が浮かんできた。あちこち血がにじんでいる。大津の皇子だった。
「大津の皇子」
 明江は顔に向かって叫んだ。大津の皇子はにやりとして片手を差し出した。四つの首が下がっている。差し出された手が生首の髪をにぎっているらしい。あらためて見ると、宇合をはじめ藤原四兄弟のものだった。
「ひどいやつらよのう。自分たちの都合で、長屋王のような男を殺して。まあ当然の報いよ」
 大津の皇子はいやな笑いを浮かべた。明江は頭をふった。
「ちがうのよ。私、私なのよ。殺すなら私を殺してよ」
 明江の言葉に大津の皇子は首を振った。
「そう簡単にはいかんのだ。おまえはただの人間ではない。薬師如来が未来から運んだ者なのだ。だから私が手を下せるのはおまえではなく、今の天子だ」
 そのことばに、明江の頭の中を電気が走った。天皇の顔が浮かぶ。明江が飛び出そうとする所へ雷が落ちた。
「大津の皇子。約束どおり、私は魂だけの姿になった。おまえの好きなようにはさせん」
 明江の聞き慣れた声が聞こえ、空に長屋王の顔が浮かんだ。明江が顔を上げるとやさしく微笑んだ。
「長屋王」
 明江は叫んだ。その声をかき消すように声が聞こえる。泣いているようにも、怒っているようにも聞こえる。やがて体が大きく震えた。
「光明子~」
 はっきりと声が聞こえて、目を開けると天皇がのぞきこんでいた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 21:23│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。