2012年09月28日

さらわれたって屁の河童4

次の日は朝から、学校のプールへ行った。校長がプールサイドで、ハンドマイクを持って立っている。
「こら、幸之助くん。二五mクロールで泳ぎきるまで帰さないぞ」
 ぼくは、半日ほとんどつきっきりでしごかれた。午後になってみんな帰っても、ぼくはプールにいた。昼に家へ帰って食事をすると、またプールで特訓をうけた。
「幸之助くん。水になじむんだ。練習しようと思ってもだめだ。カッパになったつもりで、水をつかむんだ。そうすれば、二五mくらいすぐだ」
 校長先生はそう言ったけど、ぼくは心の中で「カッパから電話は来たけどなあ」と思った。
三時をすぎて、教頭先生が呼びに来るまで、校長先生はぼくをしごいた。おかげで、手も足も筋肉痛でガチガチになった。帰りに自転車をこぐのも、つらいくらいだった。
夕方、塾へ行くとゆうとがやってきた。
「昨日、皿に水やったか」
 ぼくは黙ってうなずいた。そして、また帰りにゆうとの携帯が鳴った。ぼくが出た。
「ゴボゴボ。ニンゲン オモッタヨリシンヨウデキル コレデ ネガイカナウ ケイタイカエシテホシケレバ モウヒトツ キイテクレ ジュクノパンフレット エキノトイレニモッテコイ」
 一方的に電話は切れた。
「おい。塾のパンフレットがほしいって?」
 ゆうとはまた、乗り気になってきた。ぼくはちょっと怖かったけど、ゆうといっしょなら、なんとかなるような気もしてきた。それになんとしても、携帯はとりもどしたいし。
 ぼくたちは塾の事務室へパンフレットをもらいにいった。
「ええ? 夏期講習のパンフレット? なに、友だち誘ってくれるのか。ありがとう。助かるぜ。ゆうとに幸之助。今度なんかごちそうするからな」
 オーバーアクションで席を立った先生は、いつにない笑顔で、パンフレットの束をくれた。いつも授業でぼくたちをバカにする態度がうそのようだった。
「そんなにいりません。一枚でいいです。あのにんげ……」
 ぼくが言おうとするのを、ゆうとが後ろから引っぱって止めた。
「幸之助。おまえ、さっき『人間に上げるんじゃありません』って言おうとしただろ。なに考えてんだよ。それでなくてもおれたちチェックされてんだぞ」
 階段を降りながら、ゆうとが言った。
「うん。あとで思った。だけど、カッパのやつ、いったいなにたくらんでいるんだろう」



Posted by ひらひらヒーラーズ at 20:52│Comments(0)
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