2012年11月13日

ひらひら村の夕陽(仮題)

 松村裕子(54才)は小さなカフェをやっている。若い頃からやっている化粧品のセールスで動き回らなくても困らない収入はあるし、子どももいないのでゆっくり店をやっていける。
 スーツの女が入ってきた。
「ちょっとさぼり~。やってらんない」
 女はカウンター席に座ると頬杖をついた。裕子は苦笑いしながら水を出した。
「コーヒー。ホットで。裕子さんはいいよね。のんびりしてて」
「私だってねえ、若い頃がんばったのよ。化粧品の営業ってね、売り上げの何%かは、紹介者に行くようになっているの。若い頃の売り上げが先輩にいっちゃってつまらないって思ったけど、今は売れなくてもいくらかお金が入るの」
 裕子がカウンター越しに出したコーヒーを女が受け取る。
「それとねえ、ちょっと寂しいなと思うときもあるな。子どものこと、思い出して」
 裕子がちょっと遠くを見る目をした。女は驚いたように顔を見ると裕子の目に涙が浮かんでいた。
「子どもいたの?」
 女が遠慮がちに聞いた。裕子はゆっくりとうなずいて口を開いた。
「私ねえ、20年前に離婚したんだ。10才と5才の子を置いて家を出た」
 裕子の言葉は、ゆっくりとストーリー展開していった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 17:15│Comments(0)
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