2012年11月21日

ひらひら村の夕陽5

 裕子は、携帯で夫に電話した。
「ごめん。いやあのう。悪いとは思ったんけど、押し切られちゃって」
 夫がなさけない声を出しているのは姑のことだろう。つい言い返せなくて学校は迎に行ったということらしい。
「もう、分かったから、早く二人を返して」
 裕子は強い口調になった。電話の向こうで夫の低い声がする。うめき声のようで言葉になっていない。
「話し合いたいこともあるし、これからそちらに行きます。
 裕子の言葉に夫がもじもじしているのが、雰囲気で分かる。しばらくして夫から返事があった。
「ごめん。今だめなんだよ。母さんが連れてでているんだ」
「分かった。じゃあ、そちらに行ってあなたと話しながら待ってる」
 裕子は夫の返事を聞かずに車を走らせた。
 4日前まで住んでいた家は、なんだか誰か知らない人のもののように見えた。心の動きでこんなに感じ方が違うのかと思うとちょっとおかしい。
「ごめん。裕子。すぐに電話切っちゃうから」
 インターホン越しに言い訳して、夫が顔を出した。いつも家にいるときは、ジャージにTシャツでラフな格好をしているのに、今日は外出できる格好をしていた。



Posted by ひらひらヒーラーズ at 16:32│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。