2012年12月04日

ひらひら村の夕陽11

2日後、児童相談所から呼び出しがあった。前に会ったユデダコみたいな男は抑揚のない口調で切り出した。
「子どもさんのためを思うなら、ちゃんと母親になるか、そうでなければ近づかないでください」
 事務的で冷たい口調だった。裕子の言葉は聴いてくれそうな感じさえなかった。裕子は黙ってうなずいた。
 
 次の日、裕子は夫の家に行った。冷静に話し合うつもりだった。
 姑は意外にもあっさり家に入れてくれた。一週間前まで使っていたキッチンでお茶を入れようとするのを姑が止める。
「裕子さん。今日は私がやります」
 姑にお茶を入れてもらい、テーブルを挟んで話していると夫が現れた。姑の横に座りうつむいている。
「ねえ、あなた。こういうのって、なんとも思わないの?」
 裕子の言葉に夫が少し視線を動かして、またうつむいた。横で姑が困った顔をして息子の肩に手を置いた。それを見ていた裕子の口の中にすっぱいものが沸いた。生理的に受け付けないと思った。
「ねえ、裕子さん。何度も言っているように、子どもたちのためなの。はっきりしてもらえないかしら」
 姑が妙に静かな口調で言った。裕子の中で姑の言葉が回った。そして、何回転かしたあとで、何かが胸の中から飛び出した気がした。
 気がつくと立ち上がっていた。
「子どもたち、子どもたちって、いい加減にしてください。跡取りがほしいだけでしょう。あの子達の幸せなんか考えてないんでしょう。ほんとにあの子達のことを思っているんなら、今すぐ会わせてよ。
あの子たちと、あれから話してないんだから、それぐらいいいでしょう」
 裕子の声は、家の中に響きわたった。夫は耳をふさぎ、姑は顔をしかめた。そして口を開く。
「何度言えば分かるのかしら、あなたのそう言う態度が子どもたちもいやなんですよ。それはこの前児童相談所の方も言ってくださったでしょ」
 姑の口調は相変わらず平べったい。裕子が興奮すればするほど、夫は小さくなっていき、姑は口調だけがおだやかになる。それがたまらなく腹が立ってきた。裕子の心の中で鈍い音がした気がした。気がつくとテーブルを踏み越えて姑の肩をつかんでいた。
「馬鹿にするのもいいかげんにして。今すぐ子どもたちに会わせて。そうでなかったら、この家に火をつける。みんなで死んでやる」
 大声を出して、肩をゆすぶる裕子を夫が止めた。その手がぶるぶる震えている。
「裕子。もうだめだよ。もうあきらめようよ」
 背中で夫は泣いていた。
 裕子が我にかえってへたりこむと、ドアのすき間から子どもたち二人がのぞいていた。
 そのあと、夫が子どもたちを部屋まで送り、3人でしばらく黙ったままでいた。裕子は夜遅くなって、ホテルへ帰った。
 




Posted by ひらひらヒーラーズ at 16:33│Comments(0)
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