2012年12月16日

ひらひら村の夕陽19

アクア化粧品ですか? 聞いたことがありません」
 いぶかしがる相手に裕子がたたみかける。
「そうでしょう。もともと、業務用の化粧品でして芸能界ですとか、ブティックの店員さんが使っているものです。もしよかったら、試していただけませんか? もちろん無料です」
 相手は戸惑った顔をしながら、じっと裕子を見た。裕子はその目を見返して笑顔を作った。そして、バッグから化粧品とブラシを出した。
「ほんとに買いませんよ」
 相手はしぶしぶながら、顔に化粧品を塗らせた。説明しながらマッサージするうちに顔の筋肉が緩んでいくのが手ざわりで分かる。心もほぐれてきて、うっとりしたところに化粧水を塗りスチームをかけていく。
「きれいなお肌ですね。よく手入れしていっらっしゃいます。こちらのスチームを使っていただくと、古い角質がきれいにとれますのでおすすめです。ああ、あのう、セールスではありませんので欲しいと言われましてもお売りできませんが」
 裕子が笑顔でのぞきこむと、相手は安心したのか軽い笑顔をうかべた。
「あなたは不思議な人ねえ。ほんとに商売になるの?」
 裕子はやわらかい声を出す。
「最初から申し上げているように、私は営業マンではありません。皆様の声を聞くことが仕事なんです。またお邪魔してもいいですか」
 一通りの化粧が終わって、裕子は帰り際にまた訪問する許可をとった。
 こうして、3日連続で顔を出した裕子は、スーツの女がつきあっている男の母親と親しくなっていった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 07:58│Comments(0)
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