2013年02月14日

ひらひら村の夕陽39

 夕方が近づいてくると、裕子は落ち着かなくなってきた。何度も下着を替え体臭をチェックした。香水をつけようか、散々迷ったあげくにやめた。
 歯を磨いて、化粧もしなおした。この前買った服一式に身をつつむと鏡の前に立って深呼をした。鏡に映った裕子は泣き出しそうな顔だった。
「だいじょうぶだよ。別に嫌われたって、もともと。前の生活にもどるだけ」
 自分に言い聞かせて、家を出て待ち合わせの駅前に向かった。
 時間より少し早かったのに、相手はもう待っていた。
「すみません。待ちましたか」
 裕子が走りよると、男は微笑んで首をふった。
「なんだか、気になって早く来ちゃいました」
 男は照れくさそうに笑ってから、右手で駅の反対側をしめして歩き始めた。
 並んで歩きながら、裕子はふしぎな懐かしさをおぼえた。待ち合わせでどきどきしたり、予定より早めに行く感じってここしばらくなかった。それだけで、わくわくしている自分がおかしかった。
「ここ。前から来たかったんです」
 駅前通りの中ほどで、男は立ち止まった。落ち着いたいい感じの店だった。
「あなたもはじめてなんですか?」
 席について裕子が尋ねると、男はてれくさそうに笑った。
「男一人じゃ来れませんよ」
 男の言葉に裕子の胸が震えた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 12:42│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。