2013年05月13日

ひrひら村の夕陽55

 バスがその町に入ると、裕子は胸がくるしくなってきた。なつかしい思いとすっぱい思いがいったりきたりする。
 バスを降りると、一つ深呼吸した。その先のかどを曲がれば、昔の家の前に出る。

 家を出てからなんどか、メールしたり電話したりしたが通じなかった。そっとしておいてほしいの一点張りで、そのうちその返事さえこなくなった。どきどきしながらかども曲がってみると、15年まえと少しも変わっていない。タイムスリップしたみたいに、その間すごした自分の時間はなんだったかと思った。わるf
「あれ?」
 家の前にきて、裕子はつぶやいた。表札がかわっている。そこだけ、今風のグレーで「kawase」と書いてあった。
 心では、がっかりしながらほっとしている自分もいた。しばらく、玄関前に立っていると隣の家それでkの奥さんが出てきた。目を丸くして立ち尽くしている。まるで幽霊を見たようだった。
「裕子さん。生きていたの?」
 隣の奥さんはやっとそれだけ言った。まばたきはまだしていない。
「あのう。離婚したんですが、そのあと連絡がとれなくて。あのう。引っ越したんでしょうか」
 裕子がやっとそれだけ聞くと、隣の奥さんは裕子のそばにきて小声をだした。
「あのあとねえ、2年くらいはおばあさんと、あなたのご主人と子どもさんたちで住んでいたんだけどね、3年目の春かしらねえ、おばあさんが急に倒れて、面倒みるためにご主人が仕事やめてねえ、そのあとは坂をころげるようだったわ。ローンもあったんでしょうねえ。あわてて家を売りに出して引っ越していかれたわよ。引越し先はきいたんだけど、すぐにそこもこしたみたいで」
 隣の奥さんは申し訳なさそうにいった。
 裕子は頭を下げて、その町をあとにした。



Posted by ひらひらヒーラーズ at 07:23│Comments(0)
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