2013年07月05日

ひらひら村の夕陽60

「結婚?」
 裕子が聞くと、息子は強くにらみながら声を出した。
「うまくいくと思ったんだよ。ちゃんと分かってくれてた」
 言いながら息子は泣き出した。両腕でなみだをぬぐう。裕子がハンカチを出そうとすると、その手をはねのけた。
「私が。母親がいないから断られたの」
 裕子はおそるおそる聞いた。息子は舌をむいたままで首を振った。
「ぼくの相手も、相手の親もそんなこと気にしないと言ってくれた。そうじゃないんだよ。ぼく自身なんだよ」
 息子はまた、首を振った。裕子は電話で呼んでくれた女と男に頭をさげた。二人が意さっして去っていった。
「とにかく、私の家に来て。話聞かせて」
 裕子は息子の腕に手をやって立ち上がらせると、タクシーを拾って店にもどった。
「おばあちゃんは、去年なくなったってきいたけど」
 店について裕子が聞いた。ほんとに聞きたかったのは夫のことだったが……。
 息子はつれそうに口を開いた。
「死ぬまで、母さんの悪口言ってたよ。ある意味気の毒な人だった」
 息子ははき捨てるように言った。
「まあ、言われてもしょうがないんだけど」
 裕子は苦笑いした。そんな裕子を息子がにらみつける。
「母さんがそんなだから、みんな苦しんだんだよ」
 息子のことばに、裕子は言葉が返せなかった。



Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:44│Comments(0)
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