2013年07月27日

ひらひら村の夕陽66

 裕子は携帯を手にした。以前店にきた客が言っていたことを思い出したのである。
「ねえ。この前の話、覚えてる? ほら、知り合いが引越し屋さん勤めていて、同業者のネットワークで人のいるところが分かるって話」
 裕子は相手が出ると待ちきれずに話し出した。
「もちろん、おぼえてますよ。引越し業者の闇ネットワークで、たいていの住所は分かります」
 女は答えた。裕子は一度息を呑んでから口を開いた。
「私。今日まで、逃げていた。もう、私逃げない。この前、まえに住んでいた家に行ったときも、心のどこかで、もう、誰もいなかったらいいと思ってた。でも、今は違う。私、ちゃんと会いたい。前の主人にも、子どもにも。ちゃんとあやまって、ちゃんと怒りたい」
 電話の向こうで女がうなずいている気がした。少しの沈黙があって声が聞こえた。
「裕子さんがそういうだろうと思って、もう、調べてあるよ。今から行きます」
 女は言って電話を切った。裕子は背中に電気が走った気がした。

 15分ほどで、女は現れた。手には小さなメモを持っている。
「裕子さん。分かった。ご主人。今、名古屋にいる。再婚して、その相手との間にも子どもがいるみたい」
 女はメモを渡した。裕子は受け取って電話を取った。番号を押す指が震える。横で女と上村が見守っている。
「もしもし」
 少し、年取ったけれど、聞き覚えのある声がした。
「私。裕子です。この前、お家に行きました。引っ越されたと聞きました」
 裕子が話すと元夫はしばらく黙ってから、
「もう、忘れようよ」
 と小声で言った。
「そんなわけにはいかない。はっきりさせたいの。自分の心を。今度時間作ってください」
 裕子ははっきりとした声で言った。



Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:24│Comments(1)
この記事へのコメント
お久しぶりですm(__)m
Posted by 纏寿司大将 小池勉纏寿司大将 小池勉 at 2013年09月03日 23:57
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