2013年05月29日
ひらひら村の夕陽57
「ぼくが探しに行くよ」
上村は立ち上がって言った。裕子は半端に笑いながら上村を見た。光の加減か青年のように見える。それがちょっと微笑ましい。
「どうしても、会いたかったってわけじゃないの。急に思い出したら、行ってみたくなって」
裕子はカウンターを出て、上村の横のイスに座った。上村はじっと目の前のカウンターを見ている。
「僕の友達で、昔、引越し業者やってたやつがいるんです。そいつなら、いろんなつてで、引越しの記録とか、もってるかも知れません」
上村は思いついたのか、うれしそうに立ち上がった。
「ちょっと待ってよ。あなた、警察から疑われていたのよ。私が身元引受人なのよ。こんどなんかやったらホントに逮捕されるよ」
裕子のほうがあわてた。上村はひっこまない。
「だいじょうぶですよ。そんな法にふれるようなことはしません」
上村は言いながら、携帯を出した。誰かに電話して、相手が出るのを待ちながら裕子に話しかける。
「前に、知り合いの彼女を見つけたことがありますが、引越し業者って、けっこう横のつながりがあるんです。トラックを融通しあうこともあって、情報を共有していたりするんです」
上村がそういったところで、相手が出たらしい。小声でなにか話している。しばらく話してから、電話を切った。
「頼んでみました。あと、だめなら宅配業者にも聞いてくれるそうです」
上村は裕子に向けて親指を立てた。
上村は立ち上がって言った。裕子は半端に笑いながら上村を見た。光の加減か青年のように見える。それがちょっと微笑ましい。
「どうしても、会いたかったってわけじゃないの。急に思い出したら、行ってみたくなって」
裕子はカウンターを出て、上村の横のイスに座った。上村はじっと目の前のカウンターを見ている。
「僕の友達で、昔、引越し業者やってたやつがいるんです。そいつなら、いろんなつてで、引越しの記録とか、もってるかも知れません」
上村は思いついたのか、うれしそうに立ち上がった。
「ちょっと待ってよ。あなた、警察から疑われていたのよ。私が身元引受人なのよ。こんどなんかやったらホントに逮捕されるよ」
裕子のほうがあわてた。上村はひっこまない。
「だいじょうぶですよ。そんな法にふれるようなことはしません」
上村は言いながら、携帯を出した。誰かに電話して、相手が出るのを待ちながら裕子に話しかける。
「前に、知り合いの彼女を見つけたことがありますが、引越し業者って、けっこう横のつながりがあるんです。トラックを融通しあうこともあって、情報を共有していたりするんです」
上村がそういったところで、相手が出たらしい。小声でなにか話している。しばらく話してから、電話を切った。
「頼んでみました。あと、だめなら宅配業者にも聞いてくれるそうです」
上村は裕子に向けて親指を立てた。
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18:00
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2013年05月27日
ひらひら村の夕陽56
裕子はそのあと、どうやって帰ってきたかおぼえていない。夢遊病者のように、帰巣本能だけで店にもどってきた。
「私が悪かったのかなあ」
店の看板も出さず、明かりもつけずに独り言をいった。カードを出しても広げる気にならない。頭の中には、20年前の子どもの顔が浮かんで消えた。裕子を目の敵にしていた姑の顔が浮かんだ。なぜか、夫の顔は浮かんでこない。
裕子は苦笑いして、ため息をついた。いっしょにいるときから、存在感がなかった。
どのくらい時間がすぎただろう。気がつくと、店の前に人が立っていた。窓越しに男の頭が見える。
「すみません。今日は、休みにしています」
裕子は立ち上がって答えた。
「そうですか。またきます」
男は立ち去っていこうとする。声から上村だと分かった。裕子をホテルに行って、そのあと、警察に逮捕された男である。裕子はあわてて立ち上がった。
「上村さん。あなたは、お客じゃないでしょ」
裕子が声をかけると、上村はもどってきた。ドアを開けると、入り口でもじもじしている。
「ああ。誤解しないでよ。上村さんが私の男だなんて思ってないよ。だけど、私、あなたの身元引受人でしょ。責任あるもの。入って」
裕子の言葉に、上村は顔をあげないまま入ってきて、カウンターの一番すみに座った。裕子はカウンターに入りお茶を入れた。その間も上村はだまっていた。
「あのう。なにか、ぼくがお役に立てることってありませんか」
上村は遠慮がちに声を出した。裕子は不思議に思って上村を見た。話の流れが分からない。裕子の今の気持ちを知っているはずもないのにと思った。
「すみません。あのう。裕子さんがバス停から歩いてくるの見たんです。で、声をかけようにも怖くてかけられませんでした
上村はやっとそれだけ言った。
「じゃあ、なに? 私がもどってからずっとそこで見てたの?」
裕子は上村の顔をのぞきこんだ。上村はうなずいた。子犬のような目だった。警察からもどってきたときの目だった。
「心配してくれてありがとう。ちょっと気持ち悪いけど」
裕子はちょっと笑顔になりながら、コーヒーを出した。上村が見つめる。裕子は口を開いた。
「20年前に飛び出した家を見に行ったの。もう、引っ越してた」
裕子は、落ち込んでいるわけを話した。
「私が悪かったのかなあ」
店の看板も出さず、明かりもつけずに独り言をいった。カードを出しても広げる気にならない。頭の中には、20年前の子どもの顔が浮かんで消えた。裕子を目の敵にしていた姑の顔が浮かんだ。なぜか、夫の顔は浮かんでこない。
裕子は苦笑いして、ため息をついた。いっしょにいるときから、存在感がなかった。
どのくらい時間がすぎただろう。気がつくと、店の前に人が立っていた。窓越しに男の頭が見える。
「すみません。今日は、休みにしています」
裕子は立ち上がって答えた。
「そうですか。またきます」
男は立ち去っていこうとする。声から上村だと分かった。裕子をホテルに行って、そのあと、警察に逮捕された男である。裕子はあわてて立ち上がった。
「上村さん。あなたは、お客じゃないでしょ」
裕子が声をかけると、上村はもどってきた。ドアを開けると、入り口でもじもじしている。
「ああ。誤解しないでよ。上村さんが私の男だなんて思ってないよ。だけど、私、あなたの身元引受人でしょ。責任あるもの。入って」
裕子の言葉に、上村は顔をあげないまま入ってきて、カウンターの一番すみに座った。裕子はカウンターに入りお茶を入れた。その間も上村はだまっていた。
「あのう。なにか、ぼくがお役に立てることってありませんか」
上村は遠慮がちに声を出した。裕子は不思議に思って上村を見た。話の流れが分からない。裕子の今の気持ちを知っているはずもないのにと思った。
「すみません。あのう。裕子さんがバス停から歩いてくるの見たんです。で、声をかけようにも怖くてかけられませんでした
上村はやっとそれだけ言った。
「じゃあ、なに? 私がもどってからずっとそこで見てたの?」
裕子は上村の顔をのぞきこんだ。上村はうなずいた。子犬のような目だった。警察からもどってきたときの目だった。
「心配してくれてありがとう。ちょっと気持ち悪いけど」
裕子はちょっと笑顔になりながら、コーヒーを出した。上村が見つめる。裕子は口を開いた。
「20年前に飛び出した家を見に行ったの。もう、引っ越してた」
裕子は、落ち込んでいるわけを話した。
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2013年05月13日
ひrひら村の夕陽55
バスがその町に入ると、裕子は胸がくるしくなってきた。なつかしい思いとすっぱい思いがいったりきたりする。
バスを降りると、一つ深呼吸した。その先のかどを曲がれば、昔の家の前に出る。
家を出てからなんどか、メールしたり電話したりしたが通じなかった。そっとしておいてほしいの一点張りで、そのうちその返事さえこなくなった。どきどきしながらかども曲がってみると、15年まえと少しも変わっていない。タイムスリップしたみたいに、その間すごした自分の時間はなんだったかと思った。わるf
「あれ?」
家の前にきて、裕子はつぶやいた。表札がかわっている。そこだけ、今風のグレーで「kawase」と書いてあった。
心では、がっかりしながらほっとしている自分もいた。しばらく、玄関前に立っていると隣の家それでkの奥さんが出てきた。目を丸くして立ち尽くしている。まるで幽霊を見たようだった。
「裕子さん。生きていたの?」
隣の奥さんはやっとそれだけ言った。まばたきはまだしていない。
「あのう。離婚したんですが、そのあと連絡がとれなくて。あのう。引っ越したんでしょうか」
裕子がやっとそれだけ聞くと、隣の奥さんは裕子のそばにきて小声をだした。
「あのあとねえ、2年くらいはおばあさんと、あなたのご主人と子どもさんたちで住んでいたんだけどね、3年目の春かしらねえ、おばあさんが急に倒れて、面倒みるためにご主人が仕事やめてねえ、そのあとは坂をころげるようだったわ。ローンもあったんでしょうねえ。あわてて家を売りに出して引っ越していかれたわよ。引越し先はきいたんだけど、すぐにそこもこしたみたいで」
隣の奥さんは申し訳なさそうにいった。
裕子は頭を下げて、その町をあとにした。
バスを降りると、一つ深呼吸した。その先のかどを曲がれば、昔の家の前に出る。
家を出てからなんどか、メールしたり電話したりしたが通じなかった。そっとしておいてほしいの一点張りで、そのうちその返事さえこなくなった。どきどきしながらかども曲がってみると、15年まえと少しも変わっていない。タイムスリップしたみたいに、その間すごした自分の時間はなんだったかと思った。わるf
「あれ?」
家の前にきて、裕子はつぶやいた。表札がかわっている。そこだけ、今風のグレーで「kawase」と書いてあった。
心では、がっかりしながらほっとしている自分もいた。しばらく、玄関前に立っていると隣の家それでkの奥さんが出てきた。目を丸くして立ち尽くしている。まるで幽霊を見たようだった。
「裕子さん。生きていたの?」
隣の奥さんはやっとそれだけ言った。まばたきはまだしていない。
「あのう。離婚したんですが、そのあと連絡がとれなくて。あのう。引っ越したんでしょうか」
裕子がやっとそれだけ聞くと、隣の奥さんは裕子のそばにきて小声をだした。
「あのあとねえ、2年くらいはおばあさんと、あなたのご主人と子どもさんたちで住んでいたんだけどね、3年目の春かしらねえ、おばあさんが急に倒れて、面倒みるためにご主人が仕事やめてねえ、そのあとは坂をころげるようだったわ。ローンもあったんでしょうねえ。あわてて家を売りに出して引っ越していかれたわよ。引越し先はきいたんだけど、すぐにそこもこしたみたいで」
隣の奥さんは申し訳なさそうにいった。
裕子は頭を下げて、その町をあとにした。
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2013年05月12日
ひらひら村の夕陽54
あくる日、裕子は店を開けるとカードを出した。一日を占っていく。カードを覚えてからの習慣である。
今の自分のところで、ドラゴンフライが出てきた。トンボが羽化するときの絵が描いてある。
「変化かあ。自分が出て来るんだよねえ」
自分に言い聞かせるように独り言を言った。
「変わるって、どんなふうに?」
心の中でもう一人の自分がつぶやいた。苦笑いしながら次のカードを引いていく。願い事の位置になる。
砂漠のカードが出てきた。インディアンの青年が大人になるために出る旅の絵だった。
「冒険かあ。そうだよね。変化のための冒険ね」
続いて感じていることを引いてみると、イーグルが出てきた。霊性や自分との対話である。ここで裕子は、15年前に分かれてきた子どもと夫を思い出した。夫とは今さら話すこともないけれど、子どもたちにはきちんと謝りたい。夫のほうはきちんとけんかしてみたい。
ショッピングセンターの男との話の中でなんだか夫との関係が切なくなってきた。
「今さらだよねえ」
またつぶやいて、感じていることをめくった。地球に息を吹き込んでいる女神だった。裕子は苦笑いした。
残りの2枚をめくると、相乗作用のカードとインナーチャイルドが出てきた。
「まず、動いてみるか」
裕子は店の看板をしまって着替えた。臨時休業にしたのである。
バスに乗り、離婚する前にすんでいた町に向かった。
今の自分のところで、ドラゴンフライが出てきた。トンボが羽化するときの絵が描いてある。
「変化かあ。自分が出て来るんだよねえ」
自分に言い聞かせるように独り言を言った。
「変わるって、どんなふうに?」
心の中でもう一人の自分がつぶやいた。苦笑いしながら次のカードを引いていく。願い事の位置になる。
砂漠のカードが出てきた。インディアンの青年が大人になるために出る旅の絵だった。
「冒険かあ。そうだよね。変化のための冒険ね」
続いて感じていることを引いてみると、イーグルが出てきた。霊性や自分との対話である。ここで裕子は、15年前に分かれてきた子どもと夫を思い出した。夫とは今さら話すこともないけれど、子どもたちにはきちんと謝りたい。夫のほうはきちんとけんかしてみたい。
ショッピングセンターの男との話の中でなんだか夫との関係が切なくなってきた。
「今さらだよねえ」
またつぶやいて、感じていることをめくった。地球に息を吹き込んでいる女神だった。裕子は苦笑いした。
残りの2枚をめくると、相乗作用のカードとインナーチャイルドが出てきた。
「まず、動いてみるか」
裕子は店の看板をしまって着替えた。臨時休業にしたのである。
バスに乗り、離婚する前にすんでいた町に向かった。
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08:17
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2013年05月03日
ひらひら村の夕陽53
男は裕子の店によった。カウンターに席を取ると気の毒なほど小さくなった。
「ねえ。奥さんとは、困ったこともちゃんと話せる?」
裕子はコーヒーを出しながら、小さな声で言った。男は小さくうなずいた。それから話し出す。
「結婚して、すぐに上の子が出来ました。それまで派遣だったんですが、子どものためにと、衣料メーカーにつとめました。ちょうど子どもが生まれたころに、単身赴任でこの町にきました」
男はそこですがるように裕子を見た。
「じゃあ、ほとんど夫婦になるまえに、父親になって単身赴任したわけね」
裕子は言った。男はうなずいた。裕子は分かれた夫を思い出した。そう言えば、裕子も夫と夫婦になる前夫と向かいあってなかったことを思い出した。
「なんか分かる気がするな。私も離婚する前はそんなだった」
そういって、15年まえのことを話しはじめた。子どもがいたこと、夫が姑ばかり見ていたこと、自分は自分のことしか思ってなかったこと、(これは後になって気づいたが)を話すとなぜか涙がこぼれてきた。
「裕子さん。なんか分かります。ぼくたち、けっこう似ているんですね」
男は苦笑いを残して帰っていった。
裕子はひとりになると、カードを引いてみた。
太陽のカードがうれしかった。
「ねえ。奥さんとは、困ったこともちゃんと話せる?」
裕子はコーヒーを出しながら、小さな声で言った。男は小さくうなずいた。それから話し出す。
「結婚して、すぐに上の子が出来ました。それまで派遣だったんですが、子どものためにと、衣料メーカーにつとめました。ちょうど子どもが生まれたころに、単身赴任でこの町にきました」
男はそこですがるように裕子を見た。
「じゃあ、ほとんど夫婦になるまえに、父親になって単身赴任したわけね」
裕子は言った。男はうなずいた。裕子は分かれた夫を思い出した。そう言えば、裕子も夫と夫婦になる前夫と向かいあってなかったことを思い出した。
「なんか分かる気がするな。私も離婚する前はそんなだった」
そういって、15年まえのことを話しはじめた。子どもがいたこと、夫が姑ばかり見ていたこと、自分は自分のことしか思ってなかったこと、(これは後になって気づいたが)を話すとなぜか涙がこぼれてきた。
「裕子さん。なんか分かります。ぼくたち、けっこう似ているんですね」
男は苦笑いを残して帰っていった。
裕子はひとりになると、カードを引いてみた。
太陽のカードがうれしかった。
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09:29
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