2012年10月30日

み~んな化け物14

「おい、和夫。この噂ながしたの、おまえだろう。体中の血を吸ってしまうなんて、吸血鬼のおまえの考えそうなことじゃないか」
「ああ、そうだよ。ぼくが広めた噂さ。だからどうしたっていうんだよ」
「それが妖怪法違反なんだよ。妖怪は人間を不気味がらせるのまで許されるけど、ナイフで刺したりとか、血を吸い取ったりとかするのは許されないんだ」
「あのなあ。青いマントは確かに言ったけど、赤いマントは知らないぞ。ぼくは血を吸うけどナイフで刺したりしない」
 ぼくは叫んだ。
「違反に変わりはないぞ」
 信二の声が冷たくひびいた。
「そりゃあまあ、もっともなことだけどなあ」
勇一は腕組したままで人ごとみたいにうなずいている。
「だけど、信二。なんでおまえが妖怪ハンターなんだ」
「ぼくは人間界で風紀委員になった。人間界の風紀を守り学校の平和を保つためには悪い妖怪を退治する必要がある。そのためにぼくが選ばれたんだ」
 空に浮かんだ、大きな信二の顔は真っ赤にふくらんで、勢いよくしゃべると今にもつばが飛んできそうだった。このまま飲み込まれてしまいそうだ。勇一も正夫もだまって見ている。
「こいつら、やっぱり信二が言ったようにぼくだけ宇宙のチリにして、自分たちは助かるつもりかな」
と思ってちょっと悲しくなった。
「信二。そう大声だして疲れるであろう。和夫を逮捕するならワシたちは邪魔しない。さあ捕まえて見ろ」
 勇一がゆっくりと言った。ぼくはいよいよ覚悟を決めた。寒くもないのに肩が震えて、上と下の歯がガチガチ鳴った。それを隠すように自分で自分の肩をだくと体が空の色に解けていきそうに思った。
「まず、そんへんにしておくか」
 天狗の勇一が言ってはうちわを逆さにふると、空に稲妻が走って空に浮かんだ信二の顔をひきさいた。信二は消えた。ぼくたちは地上にもどっていつもの人間のすがたにもどった。
  


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2012年10月27日

み~んな化け物13

空が騒々しくなって来た。雷だと思っていると、やがて信二の声に変わっていった。
「勇一~。正夫~。おまえたち、おれを本気で怒らせたみたいだな~。おろか者どもめ。おれが宇宙のチリにしようとしていたのは、和夫一人だったのに。三人でそろって宇宙のチリか? あっはっはっは」
 空をスクリーンにして信二の顔が映画みたいに映った。
「信二。いったいどういうことなんだ。ぼく一人を宇宙のチリにしようとしていたって」
 ぼくは、空に向かって叫んだ。
「それじゃあ教えてやろう。おまえの妖怪法違反の容疑だ」
 信二がそこまで言うと、信二の顔の代わりに映画のようにあるシーンが始まった。そこは、ぼくたちが通う学校のトイレだった。女の子が二人泣きそうな顔で何か話している。カメラがズームインしていくように、二人がアップになっていく。
「ねえ、どうしよう。一番奥のトイレしか空いてないわ」
「しょうがないじゃない」
「でもね。このトイレって、『赤いマント着せちゃろか?』『青いマント着せちゃろか?』って声が聞こえてくるんでしょう」
「それで、『赤いマント』って答えると、ナイフで刺されて血まみれで死んじゃうのよね。『青いマント』って答えると体中の血を吸い取られて、真っ青になって死んじゃうっていうのよね。どうしよう。オシッコがまん出来ないし、休み時間はもうすぐ終わっちゃし・・・」
 そこまでで、また信二のコワ~イ顔に変わった。 
  


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2012年10月26日

み~んな化け物12

「和夫。びっくりしたか。それとなあ、トイレでワシのサナギのからをワシだと思って話しかけていただろう。あの時なあ、おまえたちの後ろを飛んだり家の外へでたりしていたんだがな、信二も正夫も和夫もワシの姿を見つけられんかっただろう。あれはなあ、カクレミノと言って、姿を消す道具だ。羽ウチワもカクレミノもカラス天狗の時は使えなかったがな、天狗になって、まあ、ゲームのボーナスポイントみたいなもんだな」
「正夫は、どうなった。ペットボトルのまま落ちていったけど」
「ちゃんと、この通り救出したから、心配いらんぞ」
 勇一は手にしたペットボトルをぼくの目の前に差し出した。中では正夫がニコニコして手を振っている。
「なあ正夫。そんな狭いところで疲れないか」
 ぼくは正夫のペットボトルに顔を近づけた。これには、勇一も正夫も笑った。
「正夫はなあ、幽霊だからなあ。ペットボトルなんかすぐに抜けられる」
 勇一がキャップをゆるめてやって、ペットボトルから正夫がゆっくりと出てきた。
「あれっ、そのペットボトル、お経が書いてあるから、幽霊は動けないんじゃないのか」
 ぼくの声は裏返った。
「大きな声出すなって。幽霊は幽霊でもぼくはクリスチャンさ。クリスチャンの幽霊がお経なんかで封じられるものか。はっはっは」
 正夫は言い終わるころには、スルリと全身が外に出た。
  


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2012年10月24日

み~んな化け物11

「うわ~。どうなっているんだ」
 信二の手錠はまっさきに外れた。ぼくたち三人は風といっしょにトイレの壁も家の壁もつきやぶって、空へ舞い上がっていった。先に正夫の閉じこめられたペットボトルが落ちていった。地上を歩く人が小さな虫くらいに見えるころになって、ぼくの手首のロープが解けた。まっさかさまに地面に向かって落ちていく。
 上も下も分からないなか、どこかから勇一の声が聞こえてきた。そして、首のうしろをつかまれた。これで落ちていくことはなさそうだ。
「おい。和夫。だいじょうぶか。だいぶ派手に暴れているようだな。信二のやつ」
「勇一なのか? いったい、これどうなっているんだ」
 ぼくは、わけも分からずに暗闇に向かってさけんだ。すると、頭の後ろでバサバサばさ~っと、大きな鳥の羽ばたきのような音がして、強い風がふいたと思うと、真っ赤な顔で鼻のなが~いやつが姿を現した。鼻というより折り畳み傘ほどもある大きな棒みたいな感じ。目はつり上がって、顔中てかてか光っている。
「和夫。そうビクビクするな。おれだよ。勇一だ」
 その声は確かに勇一だった。ぼくがなにも言えないでいると、勇一が続けた。
「すまんがな、おまえの家のトイレで脱皮させてもらった。短い間にサナギになって、成虫の天狗になるのは骨が折れたがな。まあ、なんとかなったわ」
 天狗になった勇一は、いつのまにか黒い剣道着みたいのに衣装がえしていた。胸の前で腕を組んで、さっきより羽根も一回り大きくなったようだった。
「じゃあ、信二を吹き飛ばしたのは勇一、おまえだったのか」
「そうさ。これでな」
 勇一の手には、モミジの葉の親分みたいなウチワがあった。
「これは、羽ウチワといって、天狗の持ち物では有名な方だな」
 そう言って、モミジの親分みたいなウチワを二.三回ふったら、はるか遠くに見える地上で、砂煙が立つのが見えた。
「うわ~。すごいなあ」
 ぼくが言った。
  


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2012年10月23日

み~んな化け物10

「和夫。正夫。おまえら、いっしょにトイレの前まできてくれ。勇一がトイレから逃げ出したら困るからな」
 信二は勇一を縛ったヒモとぼくを縛ったヒモを右手にしっかりと持った。左手には機関銃型のエアーガン。その手首には正夫が入ったペットボトルの口にヒモで輪を作ってぶら下げている。そうしてトイレへ向かう姿は、なんだか信二の方がガンジガラメに縛られているように見えた。
「勇一。どうだ。もう出たか」
 トイレのドアをノックしながら信二が大声で聞く。
「まだだ。この世で最後のトイレぐらい気持ち良くさせてくれよ」
 勇一の声はなんだか少し遠くから聞こえているようだった。それにガサガサ紙くずを踏むような音がしている。
「勇一。なにかたくらんでいるんじゃないだろうな。変な気を起こすと和夫と正夫をひどい目に遭わせるぞ」
「だいじょうぶだ。こんな狭いトイレの中でなにかできるものか」
 勇一の答える声はさっきよりまた遠く離れている感じだった。
「勇一。悪いけど開けさせてもらうぞ」
 信二はそう言ってから、トイレのドアノブを引きちぎるように開けた。
「信二。ひどいなあ。まだだって言ったのに」
 勇一の声はどうも上の方から聞こえているらしい、だけど、ぼくたちの目の前では洋式便器に座った勇一が膝にほおづえをつきながらぼんやりこっちを見ている。
「勇一。おまえ」
 信二が勇一の頭に手をのばすと、やっぱり遠くのほうで「いてっ」と勇一の声がして、クチバシがポトリと落ちた。顔や腕や羽根もバサバサとくずれていく。
「なんだこれ?」
 信二がクチバシを拾おうとしたその時だった。どこかからヒュルヒュルキュウルキュウとこわれた洗濯機みたいな音が聞こえてきて、木の葉がいっぱい飛んできて、風がうずをまいた
  


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2012年10月20日

み~んな化け物9

 ぼくはだめと分かっていながら両手をがたがた動かしてみた。これまでずーっと友達だと思っていた信二に裏切られ、自分の部屋のドアノブがぼくを動けなくしていることが悔しくて、なみだがポロポロこぼれてきた。
 信二は目の前に舞い降りてきた勇一の羽根と手首をヒモでしばった。
「三人とも、今日まで楽しかったよ。ありがとう。一年生のときからずーっと観察してきたけど、おまえらホントまぬけだよな」
 信二はぼくたち三人の間をゆっくり歩きながら、時々、カエルや虫をいじめるように指でつついた。
「ぼくたちこれからどうなるんだろ。刑務所とかに入れられるのか」
 ぼくは一人ごとのつもりで言ったのに、信二はぼくの方を見てまたいやらしく笑った。
「そういうのはなあ、人間の犯罪だろう。さっきも言ったようにぼくは妖怪ハンターなんだ。妖怪の犯罪はなあ、そんな甘いものじゃない。三人とも、ロケットで飛ばされて、宇宙のチリになるんだ。はっはっは。ざまあ見ろ」
 信二の顔を見ていたら、また泣けてきた。今日は楽しみにしていたパーティのはずだったのだ。よりによって、そんな楽しいはずの日に、招待した信二に逮捕されて宇宙のチリになる。ぼくがいったいなにをしたというんだ。こんなことなら、もっと早くに信二だけ血を吸ってしまえばよかった。ぼくは友達思いの「いい吸血鬼」なのに・・・。
 とうとう我慢できなくなって、声を上げて泣き出した。そうしたら、正夫もペットボトルの中で泣いている。勇一も縛られた羽根をバタバタさせながら泣き出した。
「なあ、信二。友達として最後の頼みを聞いてくれないか」
 鼻というか、クチバシを涙でぬらしてグズグズ言わせながら、勇一が縛られたままの羽根を拝むようにこすり会わせる。
「最後の頼みか、まあいいだろう。なんだ言ってみろよ」
「とっトイレに行かせてくれないか。もれそうなんだよ」
 勇一は前屈みにたおれそうに見えた。顔中から油あせが出ている。
「勇一。トイレってオシッコかウンチかどっちだ」
信二は勇一の顔をのぞきこんだ。
「うんちの方だ」
「うんち。はっはっはあぁ。笑わせるよなあ。おまえたち、これから宇宙のチリになるんだぞ。宇宙のチリがパンツやズボンの汚れを気にするなんてなあ」
「そりゃあそうだけど、勇一はカッコ付けやなんだよ。分かってやれよ」
ぼくが口をはさむと、正夫もペットボトルの中から話に参加してきた。
「信二。ほら、おぼえてないか? 1年生の遠足のとき、バスの中でオシッコもらしてさあ、みんなに『モラシヤしんじ』ってあだ名つけられて、泣いてたじゃないか」
正夫も、自分のためか勇一のためか涙声になり始めた。すると、気のせいか信二の表情がやわらかくなって、いつもの信二にちょっと近づいたみたいだった。
「ああ、思い出したぞ。そんなこともあったなあ。あのあと学校へ行けなくなって、おまえら三人で毎日迎えに来てくれたよな。おまえらが毎日笑わせてくれて楽になったから学校へ行けるようになったんだ。わかったよ。トイレに行かせてやる」
 信二は、勇一の手首のヒモをといて、そのヒモで羽根を縛っているヒモに結んだ。
  


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2012年10月19日

み~んな化け物7

 信二は茶色の手帳を見せながらぼくたちに近づいてきた。最初に正夫の手首に手錠をかけたけど、すぐに体が透きとおって行って手錠だけががちゃりと落ちた。勇一はつかまりそうになると、大きな羽根を広げてバシバシと叩いてクチバシでつついた。信二は顔から血を流して勇一を放した。
 ぼくは部屋の中を走り回って逃げたけど、すぐに信二に追いつめられた。
 信二がぼくの腕をつかんで手錠をしようとする。ぼくはここぞとばかりに牙をむいて、信二の首にかみつこうとしたけど、牙は先がおれているから、首に刺さるどころかつめでひっかいたくらいにもならない。信二は信二でいつもと同じやつとは思えないほど強い力で、ぼくの腕をぬじあげる。
 ぼくはあっさりと手錠をはめられ、そこについたヒモをドアノブにゆわえられてしまった。勇一はタンスの上に止まって、いつでも飛び立てるように羽根を少し広げながら信二をじっとにらんでいる。
 正夫は部屋のあちこちに現れたり消えたりをくりかえしていた。
「勇一。正夫。おとなしく逮捕されるんだ。おまえたちの態度によっては、和夫をひどい目にあわせなければならない。今日まで友達のふりをして、おまえたち三人の動きをさぐって来たが、なんだか半分はホントの友達のような気がしているんだ。あまり、和夫に痛い思いをさせたくないんだ」
 信二に言われて、正夫がはっきりと姿を現した。ぼくと信二の間にたって両手をさしだした。
「おお、やっぱり、バケモノ同士の友情はかたいねえ。でも正夫の場合、手錠をかけたってフワリと消えられたら終わりだから、ここに入っててもらおうか」
 信二は二リットルサイズのペットボトルを手に取った。なんだか黒い字で漢字がいっぱい書いてある。
「ここに書いてあるのは幽霊ふうじのお経だ。幽霊はこの中では逃げるどころか動くこともできないはずだ」
 信二は意地悪くわらいながら、ペットボトルをさしだす。正夫は一度半分くらい透きとおってから、細長くなって自分からボトルに入っていった。信二はしっかりとフタをしめた。
  


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2012年10月18日

み~んな化け物7

「やっぱり、この中で一番人間に近いのは正夫だよな」
 勇一が言って、ぼくと勇一は本棚のカゲにかくれることにした。
「あれっ、正夫一人? 勇一と和夫は」
 信二の声がして、正夫が適当にごまかしている声を聞きながら、ぼくたちは必死に笑いをこらえていた。このまま、カラス天狗と吸血鬼が目の前に現れたら、信二のやつどんな顔をするだろう。もしかしたら座り込んでしまって、オシッコでももらすかも知れない。頭の中で勝手に想像していると、おかしくて吹き出しそうで、息をするのも気が抜けない。吸う息はいいんだけど、吐き出すとき大声を出しそうだった。どんどん顔が熱くなってくる。勇一の顔は真っ赤だった。たぶん、勇一から見たらぼくも真っ赤だっただろう。
 我慢できずに笑ってしまったのは、ぼくたちより正夫が先だった。
「く~わっははひっひ。もうだめだ。勇一。和夫出てこいよ。もう我慢できないよ」
 二人して、顔をかくしながら前にでると、信二の顔が見る見る青くなっていく。目は大きく見開いて、ぼくたちのどちらとも言えない空中をにらんだままだった。ぎゅっと結んだ唇はプルプル震えている。
「信二。落ち着けよ。今まで黙っていたのはぼくたちが悪かったけど、言い出せなかっただけなんだよ」
ぼくはあわてて早口になった。
「ばけものでもさあ、信二。おまえの友達であることに変わりはないんだよ」
勇一が言った。
「まさか、信二まで『宇宙人だ』とか言い出すんじゃないだろうね」
正夫もちょっとあわてた感じだった。ところが、泣き出すかと思った信二の目がギラっと光った。そしてゆっくりと口を開いた。
「ふふっふ。おまえたちなにをカンチガイしてるんだよ。ぼくが泣き出すとでも思ったかい。そんな心配はいらないと思うけどなあ。いや、泣き出すのはおまえたちの方じゃないのかな? おとなしくしろ。バケモノども。妖怪法違反で現行犯逮捕する。妖怪ハンターだ」
  

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2012年10月17日

み~んな化け物6

「おい、和夫。掃除してないな。汚いぞ」
 勇一は笑いながら逃げていく。テレビの上のビデオテープがガラガラ落ちた。壁に貼ってあったポスターがはがれかけて、おじぎしているみたいだ。
 正夫は部屋のすみの方で半分透きとおりながら、ぼくたちを見て大声で笑っている。ぼくは勇一だけを追いかけているようにフェイントかけておいて、正夫の腕をつかんで飛びかかって行った。正夫はぼくをみて二.三度瞬きしてからニヤ~と笑って姿を消した。ぼくは勢いあまって机にぶつかった。筆入れと鉛筆削りを飛ばして、机に抱きつくような感じになった所へ、勇一が舞い降りてきて後ろから頭をつついてきた。ぼくは振り向きざまに自慢の牙で血を吸ってやろうとしたら、ちょうどそこにあったのは勇一のクチバシだった。
「あっはっはは。はあ。ぼくも長いこと幽霊やってるけど、男どうしのキスははじめて見たよ。それも吸血鬼とカラス天狗のキスなんて、テレビでも見たことないや」
姿の見えない正夫の笑い声が部屋にひびいた。そしてフワリと目の前に現れた。正夫に食いついてやろうとしたら、インターホンがなった。
「信二が来たみたいだ」
 正夫が言った。幽霊のくせにはあはあ肩で息をしている。勇一の羽根はだいぶ傷んだようだ。ぼくだって、壁や柱に体をぶつけたのと、勇一のクチバシにかみついたせいで、自慢の牙は上二本の先がおれてしまった。
「信二、驚くよな」
そう言ったのはカラス天狗の勇一だった。
「カラス天狗と幽霊と吸血鬼だもんな」
ぼくと正夫がそろって言った。
「でも、まあいい機会じゃないか。信二だって最初はびっくりするだろうけど、きっといい思い出になるぜ」
 ぼくは、折れた牙の先を指先でなでながら言った。
  


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2012年10月16日

み~んな化け物5

「吸血鬼って、あの血を吸うやつか? 女の人の首筋にかみついて、にや~っと笑って・・・」
 勇一は言ってから、座ったままで後ずさりした。
「なんで、おまえが逃げるんだよ。おまえ「カラス天狗」なんだろ。それに正夫が幽霊だって分かったって、びっくりしなかったじゃないか」
 ぼくはちょっとむかついた。
「だけど、和夫。それはぜんぜん違うぞ。ぼくがカラス天狗だからって、正夫が幽霊だからって誰も困らせないけど、「吸血鬼」は怖いよ。血を吸われた人が吸血鬼になっちゃうんだろ?」
「まあ、ぼくの場合は咬まれそうになったら消えちゃえばいいけど、勇一は空飛んで逃げるにしても、部屋の中だと逃げ切れないものな」
 正夫はあいかわらずじじくさく落ち着いている。
「二人ともいいかげんにしてくれよ。ぼくは確かに吸血鬼だけど、これまでおまえらの血を吸ったことなんかないじゃないか。それにな、吸血鬼に血を吸われたら吸血鬼になるなんていうのは、映画の中の話だぞ」
 ぼくは、ちょっと荒っぽい声を出した。そうしている間にも、前歯から右左四本目の糸切り歯が伸びてきてくちびるからはみだしてきた。勇一は壁際まで後ずさってブルブル震えている。
「それになあ。血を吸われるのは健康にいいんだぞ」
ぼくが言っても二人は納得しない。しかたなく続けた。
「今、健康に一番必要な物、それはきれいな血液なんだよ。血液がよごれてくると、体が疲れやすくなって、体中によごれがたまってしまうんだ。体の中ではどんどん新しい血液をつくっているんだけど、古い汚れた血がたまっていって上手に入れ替わらないんだ」 「もしかして、汚れた血をおまえが吸って、きれいな血液をとりもどすってこと」
 勇一は首をかしげながら、両方の羽で自分の首筋をなでている。
「そういうこと。ぼくんちなんか、毎週土曜日の夕方は、みんなで血を吸いあっているぞ。その時ちょっとは力がは入らなくなるけど、すぐきれいな血が出来て元気になるんだ」
 ぼくがそこまで言って、顔を近づけると勇一は羽をバタバタして逃げ回った。狭い部屋の中で大きな羽根をバタバタするから、カラーボックスやクーラーの上からほこりが立って、ケムリみたいに舞った。
  


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2012年10月15日

みーんな化け物4

「まあな、いろんな技が使えるとうになるなあ。たとえばカクレミノとか、ハウチワとかあるんだけどなあ。このカクレミノがおもしろいんだぜ。透明人間みたいに姿が消せるんだ」
 カラス天狗にはなった勇一は、羽根で体をかくすような形をした。ところが、急にキョロキョロし出したと思うと、スズメみたいに足をそろえてピョコタンピョコタン跳ねて部屋のすみの方へいく。そしてカラーボックスに頭をつっこんでガサゴソやって、ぼくが大事にしているトンボ玉をくわえて顔をだした。
「おい、勇一」
ぼくは大声になった。
「ごめん。気を許すとさあ、カラスのくせが出てキラキラする物くわえちゃうんだ」
 勇一は両手をあわせてあやまりながら、右側のはねで頭をかいた。
「でも、カラスってことは空が飛べるんだよな」
 正夫はおそるおそる勇一の背中のはねをさわった。勇一はくすぐったそうに体をそらした。
「それにしても、信二のやつ遅いよな。あいつ今年から風紀委員になったせいか、俺たちのことやたらチェックしてくるだろ。廊下を走るなとか、遅刻するなとか俺たちには言っておいて、自分は遅れてくるんだもんな。今日のこと何か聞いているか」
 勇一が目玉をクチバシの方に寄せて言った。
「なにか、へんなこと言ってたなあ。「学校や地域の枠を越えた風紀委員の会」があるとかなんとか・・・」
 正夫は何か言おうとして、口を動かすたびにはっきり姿が現れる。
「学校の枠をこえた風紀委員の会? また、わけの分からんことしているんだよなあ。ところで、和夫おまえまで、じつは・・・っていうんじゃないだろうな」
 勇一が言うと、正夫も身を乗り出してきた。ぼくは二人の間に顔を近づけた。
「ほんとに大したことないんだけど、ぼく「吸血鬼」なんだよ」
  


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2012年10月14日

み~んな化け物3

「正夫。気にするなって。っていうか。おれもにたもんなんだ。おれ、ほんとは、カラス天狗なんだ」
勇一は顔を洗うように両手でコシコシとこすった。そうすると、背中にまっ黒な羽根が生えてきた。顔はまっ黒になったし、目はテニスボールくらいの大きさで、ビックリしたみたいにまん丸で「どこを見てるのかなあ」って感じ。口は鳥のクチバシみたいな形になった。目の下から大きく出っ張って、毒ガスマスクをつけているみたい。
「おい、勇一。おまえなんだよ。そのかっこう」
 正夫が目を見開いて聞いた。
「いちおう、まあ。なんというか、天狗の弟子というか、幼虫みたいなものだな」
 カラス天狗になった勇一は、首をちぢめて頭をかいた。その頭にはキャラメルの箱を斜めにしたような帽子がのっている。
「天狗の幼虫って、おまえ、サナギになって蝶になるみたいに天狗になるのか」
 ぼくが聞いた。
「まあな。もうそろそろのはずなんだがな」
「天狗になると、どうなるんだよ」
 ぼくが聞いた。
  


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2012年10月11日

み~んな化け物2

 正夫が言うと、急に部屋が暗くなった気がした。空気がどよ~んとなって、生くさい感じ。正夫の顔だけ青く光って見えた。
「五〇年前から、ずーっと幽霊の小学生やっているのか? 『サザエさん』のカツオみたいなやつだなあ
ぼくが言いかけると、勇一が横から口をはさんでくる。
「だけど、おかしいじゃないか。正夫、おまえ一年生の時から同じクラスだろ、幽霊って成長するのか」
「そのへんが、むつかしいところなんだよ。現代はみんな疑り深くて、リアルでなくちゃだめなんだ。だから、みんなといっしょに一年生として入学して、卒業したらまた一年生からやるんだ」
 正夫が独り言のように言っている間に、どんどん透き通って向こう側の勇一が見えてくる。正夫は続けた。
「ちょっと前までは良かったよ。大人も子どもも想像力が豊かだったからさあ、スリッパ隠したり、理科室の人体標本を動かしてやれば『学校七不思議』とかって騒いでくれたんだからな。今はスリッパ隠したって、探しもせずに新しいの買っちゃうんだから。不思議とか不気味の入り込む余地がない世の中はつらいねえ、幽霊にとっては・・・」
「正夫。なんだかジジくさいぞ。今のいい方」
 ぼくは茶化してやったつもりなのに、正夫はマジメな顔でぼくを見た。
「しょうがないよ。いつもはみんなに合わせて、子どもの振りしているけど、ほんとは勇一や和夫のおじいさんと同じくらいの歳なんだから」
 正夫はそう言って、コホンとせきこんだ。
「言われてみるとさあ、正夫って朝礼の時やなんかに、貧血おこして青い顔してたよな。あれって、血の気が引いてたんじゃなくて、透きとおりはじめていたのか」
 ぼくと勇一は正夫をのぞきこむ。正夫は首を縮めて、消えかかった蛍光灯みたいに透きとおったり現れたりをくりかえした。
「まあ。そういうことだ。ほんとにごめん」
 正夫はまた頭をさげた。
  


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2012年10月10日

み~んな化け物 新作です!!


 今日は楽しみにしていためちゃくちゃパーティ。ぼくの父ちゃんと母ちゃんが親戚の結婚式に出かけていったので、このチャンスとばかりに、勇一と正夫と信二を呼ぶことにした。三人は、小学校に入ったときからのつきあいだから、もう五年になる。勇一と正夫は待ちきれずに早く来たけど、信二はいつものことで時間に遅れている。三人で信二を待っていた。
外は弱い雨がふっていた。テレビにもあきて、おやつも食べ過ぎてあきていた。 
 
「なあ、和夫。うちのクラス祐子がさあ、おまえとうわさになってるの知ってるか」
 とつぜん、勇一がぼくを見た。けっこうきつい視線だった。祐子っていうのは、クラスで一番の人気だ。勉強は中ぐらいだけど、笑顔がかわいいし話がおもしろい。それになにかと面倒見がいいから男はみんなねらっている。
「なんだよ。知らないぞ。そんな話」
 ぼくはそう言って笑ったけど悪い気はしない。
「この前の日曜日、駅前のコンビニに二人でいるとこみたって聞いたぞ」
 勇一はかみつきそうな顔でせまってくる。
「日曜日なら、ぼくはサッカーの試合で朝からいなかったよ。もし、どうしても見たっていうなら、ぼくの生き霊かな? そう言えば、学校七不思議って知ってるか」
 めんどうだから、話をかえたら勇一が乗ってきた。
「ああ知ってるよ。図書館で誰もいないのに、本をめくる音がするとか、プールで足をひっぱられるとか言ううわさだろ」
 勇一が言って、ぼくがうなずいた。正夫はなぜか小さくなっている。
「ぼくらのクラスにも出るんだってゆうれいが」
 勇一が言ってのぞきこむと、正夫はカメみたいに顔をひっこめた。ぼくと勇一は不思議がって正夫を見た。
「ごめん。今まで言い出せなかったんだけど、それ、ぼくなんだ」
 正夫は小さな声で言った。
「ええ。なに、あのゆうれい見たのって、正夫なのか。すごいじゃん」
 ぼくが言って肩をたたいたら、正夫は首をふった。
「そうじゃなくて、ぼくがそのゆうれいなんだ。今までだまっててごめん」
 そこまで言うと、正夫は体が透きとおって消えた。ぼくたちが正夫のいたあたりを探しているとふわりと現れた。
「ごめん。ずっとだまってて。ぼく、五〇年も前に死んでいるんだ」
  

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2012年10月03日

さらわれたって屁の河童 完結

「じゃあ、おまえ、人間の世界にいたのか」
 ぼくが聞いた。
「ハイ ニンゲンセカイノ コドモ ユウシュウデス リッパナ カッパ ニ ナルタメ ニンゲン ノ ジュク リュウガクシタ」
「じゃあ、人間に化けるために、皿があってはじゃまだったんだな。人間をやっつけるとか、そういうことじゃないのか。それと、おまえ、ぼくのこと見張ってたのかよ」
「カッパハ ミズガアレバ ドコカラ デモ イケマス。 トイレ ノ センメン ヤ フロバ カラ ノゾイテ マシタ」
「それで、ぼくが水泳で困ってたことも、知ってたわけだな。それにしても、なんかドラマで見た誘拐犯みたいに思ってたなあ。おまえのこと」
 ぼくがホッとして言った。そしたらカッパは、目を見開いて片手をふった。
「ユウカイ ナンテ イワナイデ ソノコトバ コワイ」
「なんでまた、そんなに誘拐にこだわるんだい」
 ゆうとが聞いた。
「ニンゲン ノ ジュク デ コトバ ナライマシタ ユウカイ ッテ サラワレル コト サラワレタラ(皿割れたら) カッパ シヌ」
 ぼくとゆうとは笑った。

 この話、これで終わりです。あの~怒ってないですか?(笑)  


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2012年10月03日

さらわれたって屁の河童9

「幸之助。今日で一週間だよな」
 塾の帰りに、ゆうとが言った。
ぼくがうなずいたところで、ゆうとの携帯がなった。ぼくたちは目を閉じて電話をとった。
「ゴボゴボ ヤクソクドウリ ケイタイ カエス アシタ ノ ユウガタ エキ ノ トイレ ニ コイ」
 電話は、そこで切れた。ぼくは迷った。
「ゆうと。カッパのやつ、ほんとに電話返してくれるかな」
「うーん。どうかな。でも、こっちには皿があるんだろ。おれたち、二人でトイレに行って、もしおまえがカッパに襲われそうになったら、ぼくが、皿の水をこぼしてやる」
 ゆうとに言われて、ぼくはちょっと勇気が出てきた。
 次の日、ぼくはカバンにカッパの皿を入れて塾に行った。夕方、ゆうとの携帯がなって、ぼくたちは震えながら駅のトイレに向かった。カッパの指示通り、目をとじて洗面の前に行った。皿はゆうとが持っている。
「モウ メ ヲ アケテイイ」
カッパの声で目をあけると、幼稚園児くらいの大きさの緑色のへんなやつがいた。ちょっと猫背で、目はつりあがって口はカエルみたいに大きかった。
 ゆうとから受け取って、ぼくが皿をさしだすと、カッパは両手で拝むように頭にのせた。
「マイニチ ミズ ヲ カケテクレテ タスカッタ」
 カッパは頭の上の皿を、右手で何度もなでた。
「それ、毎日大きくなっていたぞ」
 ぼくが言うと、カッパは両手をあわせた。
「ニンゲンノ ツメト オナジ カラダガセイチョウスレバ サラモ ノビル」
「成長?」
 ゆうとが声をひっくり返した。
「ソウ カッパ オトナ ニ ナルトキ ニンゲン ノ セカイ タビ ヲ スル ワタシ モ コドモカッパ カラ オトナカッパ ニ ナレタ」
カッパはぼくの携帯を返してくれた。ぼくは夢で見たことを思い出した。


 
 
  


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2012年10月02日

さらわれたって屁の河童8

 目が覚めて、ぼくは体中汗をかいていたのに気づいた。タオルケットがまきついて、チョウのサナギみたいになっていた。
落ちつくと机の上の皿を見た。やっぱり、カッパは怒っている。それも、夢がもし正夢だったら、カッパのテロリストかも知れない。ぼくは一度身震いして、皿に水を張った。あたりを見回しながら、一階へ行ってパンをかじってから着替えた。父さんはとっくに出かけていたし、母さんももうパートに出たあとだった。ぼくは体中を目にしたくらい、まわりに気を配った。学校のプールもさぼった。トイレはぎりぎりまで我慢した。塾でゆうとに夢の話をした。
「しゃれにならんぞ。明日、図書館でカッパのこと調べようぜ」
 次の日、ぼくとゆうとは、図書館でカッパのことを調べた。カッパは小さくても、すもうが強いこと、泳いで川で泳いでいると、おしりから手を入れて、きもを抜かれる、と書いてある本があった。
「なあ。きもってなんだ」
 ゆうとが言った。ぜんぜん笑ってない。
「おしりから抜くってことは、やっぱり、内臓だよね。腸かな」
 言いながら、ぼくは、昨日風呂場で見た緑色の手を思い出して、背中がぞくっとした。ぼくの手にはめたカッパの手が、ぼくの腸を取っちゃう。そんなのあんまりだ。あと、カッパの弱点は、頭の皿の水がなくなると、動けないらしい。
その日からは、もちろん毎日、皿に水を忘れなかった。それからは、カッパから電話が来なかった。ぎゃくにそれが不気味だった。
 
  


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2012年10月02日

さらわれたって屁の河童7

「さっき、風呂場で変な声が聞こえたんだ。水かきのついた手が、出てきた」
 そこまで言うと、ゆうとは逃げだそうとしたけど、腕をつかんで無理やり家に入れた。いっしょに風呂場を見に行ったけど、もう声もしなかったし、カッパの手もなかった。
「なあ、カッパのやつ、どこかで見はっててんだよ。ちゃんと、約束守った方がいいよ」
 ゆうとは部屋の中を見回しながら言った。カーテンのしわまでカッパに見えてくる。トイレにに行くのも、水を飲みにいくのもこわかった。
 けっきょく、母さんが帰るまでゆうとにいてもらった。
 その夜、夢を見た。ビルの屋上にある貯水槽のへりに、カッパが五匹並んで座っている。それぞれ、手に携帯電話とピストルを持っている。そして頭には皿がなかった。
「ワレワレハ モウ ニンゲンタチヲ ユルスワケニハ イカナイ」
 一番大きいカッパが叫んで、他のカッパたちは両手を上げて答えた。一匹がぼくをギロリとにらんだ。ぼくは必死でもがいた。もがくほど、何かがからみついてくる。
  


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2012年10月01日

さらわれたって屁の河童6

 三日目の夜、風呂に入っているときだった。父さんも母さんも帰っていなかった。どこかで、ゼイゼイと苦しそうな息が聞こえる。風呂を上がって机に行くと、皿はすっかり乾いていた。水かきはない。あれっと思いながら皿を持って風呂場へ行った。
「ごめん。忘れてた」
 皿に手を合わせてから水を入れると、皿はちょっとピンク色にもどった。そして、排水口から緑色の手が伸びてきた。指の間に水かきがある。昨日ぼくがプールで使ったやつだった。だんだん近づいてくる。
「ごめん。忘れただけじゃないか。ごめん」
 ぼくは逃げるように風呂場を出た。そしたらインターホンがなった。震えながらモニターを見るとゆうとだった。助かったと思って玄関に行った。とにかく一人はこわい。
「ああ。よかった。幸之助、ちょっと、見てくれ。おまえの携帯から、またかかって来た。怖かったから、そのままおいといたら、メールが来たんだ。それが、これなんだ」
 ゆうとは、携帯の画面を見せた。
「ニンゲン ヤッパリ ズルイ ヤクソク シタノニ ユルサナイ」と書いてあって、最後にガイコツの絵が入っていた。
  


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