2011年07月22日

海の道(仮題)8

「立派な心であるな」
 大津の皇子は低い声で言った。肩はふるえ、赤く充血した目はつり上がっている。
「では、望み通り斬ってやろう」
 大津の皇子は刀をぬいて麻績の王の目の前に切っ先をおいた。麻績の王は目をそらさない。
「お待ち下さい。麻績の王様は流罪の身。お命を奪えるのは天子様だけのはず」
 見張り役と言っていた男が割って入った。
「うるさい。この私が天子様になると言っているのだ。そこをどけ」
 大津の皇子は見張り役の男に刃先を向けた。麻績の王はゆったりと笑っている。
「大津の皇子様。私も斬ってください」
 常陸の国の荒瀬が立ち上がった。大津の皇子は3人をにらんだ。
「おまえたち、見あげたものだ。だがなあ、生きていてこそ、国も守れるというものだ」
「お言葉ですが、それは違います。この国は生きている者だけのものではありません。大勢の先祖方が守られています。もしも、ここであなたに切られたなら、私は魂だけの姿になって国を護りましょう」
 麻績の王は微笑んだままだった。それが苛つかせたのか、大津の皇子は刀をふりあげた。銀色の刀身に不気味な光が流れていく。その時だった。
 本堂の外で青白い光が走ったと思うと青い筋が飛び込んできた。皆何が起こったのか分からずにぽかんとしている。気がつくと大津の皇子は外に飛ばされていた。刀を持った手は黒く焦げている。うつろな目で宙を見あげていた。
「大津の皇子さま。天はあなたに味方されていません。どうかお考え直しください」
 麻績の王は深く頭をさげて本堂にもどった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 09:42│Comments(0)
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