2011年08月01日

海の道(仮題)13

 一方の麻績の王を乗せた船は、鳥羽の沖合に先回りしていた。
 因幡で大津の皇子に斬られそうになり、雷で救われた。大津の皇子達が去った後因幡を発った。大津の皇子たちは陸路で瀬戸内を目指したが、麻績の王たちは船で因幡を出た。麻績の王の見張り役だった因幡のシロヒトが船を用意したのである。常陸の荒瀬、因幡のシロヒト、をしたがえて関門海峡を抜け瀬戸内へ出た。海流を利用して夜昼関係なく進むと、4日目には村国や村雄のいる瀬戸内についた。
 瀬戸内での争いから村国を救い出し、淡路島の北で浪速津の様子をうかがうと、防備がしっかりしていて大津の皇子の軍勢が来ても攻め込めそうもないと判断して伊勢に向かったのである。
「浪速津で上陸出来なければ、伊勢に向かうだろう」
 この言葉は村国による。
「麻績の王さま。あなたはなぜ、謀反になるのを覚悟で私たちを守ろうとされるのですか」
 船に揺られながら、荒瀬が聞いた。
「私は、幸せに生きたいのだ。そのためにはまず、まわりの誰もが幸せでなければならん。人だけではない、海も風も砂も木も草もなにもかも幸せでなければならん。それだけだ」
 麻績の王はゆったりと笑った。
「それなら、あの大津の皇子だって、正義のために国を変えると言っていましたが……」
 シロヒトが遠慮がちに口をはさんだ。麻績の王がやさしい目を向ける。
「私は、若い頃に大きな戦を経験した。どんな理由があろうと正義のための戦などありえん。どんなすばらしい世の中が待っていようと、人が死んでいくのはつらい」
 麻績の王が遠くを見た。
「あれは何でしょう」
 村国が沖合を指さした。板きれに子どもがすがりついて流れている。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 07:13│Comments(0)
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