2011年10月11日

現代へと続く海の道(仮題)42

 三日後の夕方、白宮は勇人を待ちながら船をつくっていた。母親が弓道の師匠のもとで働きだしてから、夕方に時間がとれると迎えにくることがある。そんなときは母親に任せて仕事にいく。人の気配がしたので勇人の母かと思ってふりむいた。
「お疲れさまですな」
 にこやかに立っていたのは弓道の師匠だった。白い着物にハカマの弓道着姿だった。手には布につつんだ細長い棒をもっている。弓だろうか。
「どうしたんですか」
 白宮がおどろきの声を上げた。師匠は照れくさそうに頭をかく。
「昨日、話を聞いていてうらやましくなりましてな。運動会に船出でしょう。私も入れてもらえるように頼んできました。ここの校長は、話の分かる人ですな」
 師匠は弓を引く形をした。
「船から、弓を打つんですか」
 白宮が言って、師匠がうなずいた。それから白宮に説明していく。古い寺の祭行事で四方に矢を放つものがあること、それ専用の安全な矢があること。白宮は納得した。そこへ同じような着物姿の男達が五人入ってきた。
「私の弓道の仲間です。子ども達といっしょに楽しみたいと思いましてな。これも許可をとってきました」
 師匠が紹介してみんな白宮に頭を下げた。
「それ、おもしろいと思います。ぼくも思ってました。子どもたちにゲームよりおもしろいものを提案出来ないかと思っていたんです」
 白宮の目がかがやいて、男達を船に入れた。男達はハカマのすそをまくって白宮の作業を手伝った。ランドセルを背負った子ども達が通りかかると、足を止めて船に入ってくる。白宮に聞いて船の内側に化粧板を貼っていく。
「ああ。師匠」
 勇人は師匠を見て顔をほころばせた。同級生たちもやってきて作業をはじめた。みんな素直に白宮に従うし楽しそうだった。作業にあきると、弓をさわらせてもらった。
「あっ」
 一人が小さな声を上げてふりむいた。勇人のクラスの学級委員、早川が立っていた。笑っても怒ってもいない無表情だった。白宮と目があうと軽く頭を下げた。
「学校のために、いつもありがとうございます。ぼくは参加できません。失礼します」
 早川は表情をかえないまま言って頭を下げると帰って行った。すると他の子ども達も、一人また一人と帰って行った。最後、子どもは勇人一人になった。大人もなんとなく無口になり日が暮れる頃、勇人の母親が迎えにきた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:31│Comments(0)
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