2011年10月25日

現代へと続く海の道(仮題)51 香坂の部屋

 **小学校の近くにある香坂のアパートの部屋である。夕暮れのこと、夜でも昼でもないこの時間を昔の人は逢魔が刻と言った。
 香坂はテーブルに頬杖をついて深い息をはいた。テーブルには札束が無造作に置いてある。
「なんで、こんなに空しいのだろう」
 ひとりごとを言ったところで、いつもの大男が入ってきた。
「こんばんは。それ、売り上げか?」
 大男は札束に手を伸ばした。香坂はちらりと見ただけで何とも言わない。
「へんなのよ。最近夢ばっかり見るの」
 しばらくして、香坂は顔を上げると大男を見た。心なしか目がうるんでいる。
「どんな夢なんだ?」
 大男は顔をのぞきこんだ。
「どこかの小さな島にいるの。小さな子どもが、泣きながら『お母さん。もう泣かないで』って何度何度も言うのよ。私は泣きながら倒れて、白い鳥になるの」
 香坂は頭を抱えて、テーブルにふせた。
「あんた。水晶玉で、見ることができるじゃないか」
 大男が言って、香坂は水晶玉に右手をかざした。ゆっくりとなでていく。
「見えた。亀のような形の島と、小さな島がある。小さい方の島は鳥居がある」
 香坂が言うと、大男が目を見ひらいた。
「それ。神島じゃないか? おれが、海の神様の声を最初に聞いたところだ。小さい方は鯛島だ。江戸時代に沈んだって聞いたことがある」
 大男が言ったところで、ドアがノックされた。香坂はあわてて札束をしまい。
「どうぞ」とやわらかい声を出した。入って来たのは、勇人の同級生早川だった。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 07:45│Comments(0)
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