2011年10月26日

現代へと続く海の道(仮題)52

 勇人の同級生、早川が入って来ると、大男は奥の部屋に引っ込んだ。早川は一瞬だけ大男を見た。
「あのう。すみません。お金はありません」
 香坂の前に出ると、早川は小さな声で言った。香坂はやさしく笑った。
「そうか。それで先週は来なかったんだ。でもいいよ。早川君は特別」
 そう言って、メモリカードを差し出した。早川が受け取ろうとすると、ニヤリとして手を引っ込めた。
「それで、最近どうなの。学校は。まだ、船をつくっているの。へんな大人たち」
 香坂が顔を近づけた。早川は一歩引いた。
「はい。だいぶ船は出来上がったみたいです。勇人は前からだけど、他の子ども達、特に低学年の子は休み時間や帰りに船で遊ぶ子が増えて来ました。だから、ゲームも売れなくなって来たんだと思います」
 早川は申し訳なさそうだった。香坂はいつになくやさしい目をした。
「いいのよ。そんなことは心配しなくても。ゲームはねえ**校区だけで売っているわけじゃないの」
そこまで言って、香坂は声のトーンを落とした。目つきも急に悪くなった。そして続ける。
「船をつくっている二人のうち一人は、この前事故にあった白宮とかいう人よねえ。もう一人はなんていう人?」
 香坂の視線は、刺さるようだった。早川はたじろぎながらやっと答えた。
「石巻山のふもとで、設計事務所をやっている荒川という人だそうです」
 早川がやっと答えると、香坂はやっと笑顔になってメモリカードを渡した。
「ありがとう。また、ゲームのステージが進んだら電話してから来て、お金は気にしなくてもいいから。それから、神崎勇人はひどい目にあわせてね」
 早川の帰り際に香坂は早口で言った。早川が帰って行くと、奥の部屋から大男が出てきた。
「あんたの考えていることはホントに分からない。ゲームソフトは売り上げが減ってきたのに、作り続けろって言うし、それをただでやるし」
 大男が言うと、香坂はめんどくさそうに答えた。
「ゲームの方では、もうお金はいいの。大人用の『安眠まくら』でもうけてるから。さっきの早川って子には、神崎勇人をいじめてもらって、早く学校へ来られなくしてもらうの。それと、学校の情報をもらうために引き留めてあるの」
 香坂は小さな声で言った。それから、水晶玉を見つめてつぶやいた。
「大津の皇子様がおっしゃることなの」
「あんたはこわいよ」
 大男が顔をゆがめて笑った。香坂はじっと大男を見た。
「近いうちに、石巻山のふもとへいって。荒川っていう建築師の事務所を探して。見つけたら、放火でもなんでもして」
 香坂の目にまた毒が宿った。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:30│Comments(0)
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