2012年12月13日

ひらひら村の夕陽18

 あくる日、裕子は化粧品の入ったバッグを持って家を出た。サンプルの化粧品一式と道具、それと顔にスチームをあてるティシュボックスほどの機械が入っている。
 女からあずかったメモを頼りに家を見つけた。インターホンを押すと、しばらくしてめんどくさそうな声がした。
「アクア化粧品と申します。新しい化粧品とスチーマーのご紹介で、この地域を回っています」
 裕子は営業スマイルを浮かべてインターホンに向かった。最近のインターホンは小型のカメラで来訪者の顔が見えるようになっているので、ここで愛想よくしなければドアも開けてもらえない。
 「今、忙しいのよ。セールスならお断りよ」
 インターホン越しの声は、警戒とめんどくささが漂っているが、飛び込みで営業していればいつものことである。
「お客様。セールスではありません。新商品のサンプルをお持ちして感想をうかがっているものですから、何もお売りしません。ご近所はみなさん見ていただきました。ドアだけでも開けていただけませんか」
 裕子の言い方は歯切れがよくて調子がいい。相手は誘われるようにドアを開けた。チェーンロックのすき間から声をかけてきた。
「あのねえ、さっきも言ったでしょ。忙しいから迷惑なんです」
 相手はそこまで言って、わずかに開いた隙間を閉じようとする。そのせつなに、裕子は膝をドアに入れた。ドアは閉じられず、裕子はうめき声を上げた。
「痛い」
 裕子はわざと大きな声を出した。相手は驚いて閉じかけていたドアを開けた。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
 相手はドアを開けて、うずくまった裕子の背中に声をかけた。
「痛い。痛いですが、私が無理に足を入れたからいけないんです」
 裕子は玄関先でアルマジロみたいにしている。
「あのう。まずは入ってください」
 相手は、裕子を家にあげた。リビングに案内するとお茶を入れた。
「すみません。わざとじゃないんです。ケガされてませんか?」
「だいじょうぶです。私の方こそ失礼をしました。突然うかがってこんなご迷惑をおかけして、私「アクア化粧品」の松村裕子といいます」
 裕子が名刺を出すと、相手は受け取って名刺と裕子を見比べた。




Posted by ひらひらヒーラーズ at 13:13│Comments(0)
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