2013年07月04日

ひらひら村の夕陽59

 裕子は店を飛び出してタクシーを拾った。先ほど聞いたバス停を告げると、無愛想な運転手は軽くうなずいて車を出した。
 バス停に着くと、若い男が2人つかみ合っている。女が泣き叫んでいる。裕子は車を降りると走り出した。
「あなたたち、やめなさい」
 裕子は声をしぼって止めに入った。見覚えのある若い女が肩を落として涙ぐんだ。安心したらしい。
 男たちは、裕子に気づいて手を止めた。
「あなたは」
 思わず裕子は息をのんだ。20年前においてきた息子だった。当時5才だったからもちろん顔や体は大人になっているが、面影はある。
 男は一瞬裕子を見て表情がかたまった。そのあとけわしい顔になった。裕子の手から力が抜けていく。
 若い女が説明する。
「彼といっしょに近くを通りかかったの。そしたら、この人が家を覗き込んでいたから、声をかけたら突然なぐりかかられて」
 女が話しているうちに、男二人も落ち着いてきた。逆に裕子のほうが声が上ずっていく。
「この人。息子なんです。20年前において家を出ました」
 裕子は小さな声でやっと言った。男が裕子をにらんだ。
「おれ、結婚がこわれたんだ。この女のせいで」
 男は裕子を指差した。裕子は男を見た。
「このまえ、隣の奥さんに会った。あのあと、すぐにおばあちゃん亡くなったって聞いたけど」
 裕子が言うと、男はきつい顔をした。



Posted by ひらひらヒーラーズ at 07:37│Comments(0)
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