2018年09月21日

9月21日の記事

バカバカしい話だけど、聖武天皇と行基は同一人物の気がしてならない。
「暴れん坊将軍」みたいに、聖武天皇が気晴らしに貧乏ボウズの格好して、日本国中をほっつき歩いていたんじゃないだろうか。

でもって、裏で糸を引いてたのが、光明皇后だったら面白いのに。

 なんて、マジで歴史が好きな皆さん。どうか怒らないで~。

 なのだ。  

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2013年10月13日

ひらひら村の夕日71

「それはね、あなた、自分の頭だけで動いた結果ね」
 裕子は冷たく言い放った。元夫は小さくなって見上げる。一度何か言いたげに裕子を見たがまた下を向いた。裕子は少し口調を柔らかくした。
「あのね。結婚した相手の女性のこと好き?」
 口にしながら裕子の胸からチリチリと音がする感じがした。どこかでまだ好きなんだろうか? 心の中で思ってすぐに打ち消した。
「そりゃあ、好きだよ」
 元夫は遠慮がちに顔を上げた。裕子の目が少し意地悪になる。
「それってさあ、あなたにとって、都合のいいところは好きってことじゃない?」
 元夫は裕子の目をじっと見た。そして切なそうに一度顔を下げた。
「裕子といた時のことを言ってるのか?」
 元夫は顔をあげないまま声をしぼりだした。裕子はちょっと反省した。八つ当たりになったかなあと思った。
「ごめん。ちょっと言い方意地悪だったね。もうちょっとわかりやすく言うね」
 裕子はここで一度、言葉を切った。しばらく宙をにらんで考える。そして口を開いた。
「あなたはね、ちゃんと相手のこと考えているつもりかも知れないけど、ぜんぜん相手を見ていない。そう思わない?」
 元夫はうつむいたままで首を振った。裕子は言葉を続けた。
「もしも、相手に子どもがいなかったらって思っているでしょ」
 ここで、元夫は顔をあげた。裕子を見て首を小さく振った。
「責めてるんじゃないの。思ってもいいのよ。だけど、そこで、奥さんの心を見て。母親と一人の女として揺れている切ない心を見て。そうしたら、あなたもう少し大きな心で見られない? 奥さんのこと」
 裕子の言葉を聴き終わって、元夫の目に涙が流れた。それから、妻のこと子どものことが堰を切ったように夫の口からこぼれでた。裕子は一つずつ頷いて聞いた。
 それが終わると、元夫をじっと見てカードを広げた。  

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2013年09月28日

ひらひら村に夕陽70

 あくる日、裕子の店に元夫から電話がきた。
「さっそく、電話くれたね。なんだかちょっと複雑」
 裕子は電話に向かって苦笑いした。受話器から小さな声がもれた。
「ごめん」といった。それから、午後から店にくることを伝えて場所を聞いた。
 元夫は店に着くと、中を見回した。
「やっぱり、裕子は強いよなあ」言いかけて、裕子の視線に気づき言葉をとめた。
 裕子はテーブル席をすすめて布を敷いた。カードをシャッフルしていく。
「まずは、今の状況を話して。整理していくから」
 元夫に向けて、扇状にカードを広げた裕子はまっすぐに目を向けた。
「裕子が出て行ってから、母さんが子どもたちの面倒をみて、去年、二人とも独立した。その前から付き合っていたんだけど、母さんもいなくなったところで、結婚したんだ」
 元夫が言いかけたところで、裕子が止めた。
「あなたって、なんか、いつも状況で動くのよね」
 元夫はしたを向いてうなずいた。頭をかく。
「それで、相手に連れ子がいて、小さかったんだけど。この子がかわいくないんだ。結婚してから」
 裕子は苦笑いした。  
タグ :元夫連れ子


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2013年09月21日

ひらひら村の夕陽69

「そんなのいや。私、あのあとどんな思いしたと思う?」
 裕子は半泣きになった。元夫はなにも答えない。
「あなたってさあ、自分で何もしてないんじゃない? 私と別れる時だって、お母さんのいいなりで、けんかしたのは私とお母さんだったじゃない」
 裕子の言葉に、元夫は黙ったうなずいた。それから、ゆっくり顔をあげた。
「裕子ってさあ、強いよな」
 これを言われて、裕子が切れた。
「いい加減にしてよ。私だって弱い女でいたかったわよ。誰のせいよ」
 大声に店中の視線が集まった。元夫はじっと裕子を見ている。裕子は少し落ち着いて声を落とした。
「まずは、あなた幸せになってよ。それしかない」
 そういってから、名刺を出した。
「今、私カフェやりながら、カード占いやってるの。あなたのこと、夫としては終わったけど、お客さんとして面倒みようか」
 そういって、先に店を出た。  

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2013年09月16日

ひらひら村の夕陽68

 元夫の表情が少しゆるんだ。
「じつは、息子のこと、ずっと思っていたんだ。あいつが背負っているもの少しでも軽くしたかった」
 元夫はぽつりぽつりと話し出した。裕子のいなくなってからのことを。
 裕子がいなくなったあと、姑が世話をし子どもたちは表面上問題なく成長しているように見えたという。上の子は大学を出るとそのまま東京で就職したという。弟は高校をでて専門学校へすすみ卒業して務め始めたという。
 このタイミングで、元夫は再婚し数年たったところで姑が病死したという。
「結婚を意識し始めたところで、私とあなたのことがひっかかったってこと?」
 裕子は思い切って聞いた。もと夫は小さくうなずいた。裕子はなんだか家を飛び出す前に夫を見ているような気がした。
「もちろん、責任は感じるけど、だけど、そんなのあの子の言い訳なんじゃない? 親が離婚してもちゃんと幸せになっている人いっぱいいるじゃない」
 元夫は切なそうに顔を上げた。
「たぶん。それだけじゃないんだと思う。俺なんだよ。きっと」
 元夫は顔を振った。
「それ、どういうこと?」
 裕子がのぞきこんだ。
「俺が幸せそうじゃないと、希望が見えないんだと思う」
 元夫はしぼりだすような声を出した。
「あなた。幸せじゃないの?」
 裕子の言葉に元夫はうなずいた。  

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2013年09月15日

ひらひら村の夕陽67

 裕子は元夫に無理やり約束させて、次の日曜日会うことになった。名古屋の駅前にある喫茶店で待ち合わせした。

 その日曜日。休みの朝、駅前の喫茶店は静かだった。通りを歩く人も少ない。
 元夫は少し肩が小さくなって見えたが、そんなに老けた感じはしなかった。
「20年ぶりだよね。この前、**にあった」
 裕子は前の自宅で、息子に会ったことを話した。元夫は顔を上げなかったが、首が動いたので聞いていることは分かった。それでも何も言わない。
「あのさあ、今、幸せ?」
 裕子が小さな声で言うと、元夫はゆっくり顔をあげて切なそうにうなずいた。裕子の中でこみ上げてくるものがある。
「いいのよ。幸せで。私だって、それなりにやってるんだもの。それにあなたを責めたかったんじゃないんだ。そうじゃなくて謝りたかったのかもしれない」
 裕子の言葉に元夫は目を見開いてみた。裕子は続けた。
「私。もう、いい加減に、あなたも私も許して。そいでまじめに生きたいの」
 裕子の言ったことに、元夫は中途半端な笑いを浮かべた。それから柔らかい目で裕子を見た。
「あの時、私、どろんこになればよかった。あなたが好き、子どもたちが好き、それだけで生きればよかった」
 元夫の目が潤んできた。なにかいいたそうに口をもごもごする。
「ぼくも、ちゃんと生きればよかった」
 元夫が小声で言った。
「ねえ。この前、**に会ったとき、結婚のこと聞いたんだけど。いっしょに応援しない?」
 裕子が言って、元夫がうなずいた。  

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2013年07月27日

ひらひら村の夕陽66

 裕子は携帯を手にした。以前店にきた客が言っていたことを思い出したのである。
「ねえ。この前の話、覚えてる? ほら、知り合いが引越し屋さん勤めていて、同業者のネットワークで人のいるところが分かるって話」
 裕子は相手が出ると待ちきれずに話し出した。
「もちろん、おぼえてますよ。引越し業者の闇ネットワークで、たいていの住所は分かります」
 女は答えた。裕子は一度息を呑んでから口を開いた。
「私。今日まで、逃げていた。もう、私逃げない。この前、まえに住んでいた家に行ったときも、心のどこかで、もう、誰もいなかったらいいと思ってた。でも、今は違う。私、ちゃんと会いたい。前の主人にも、子どもにも。ちゃんとあやまって、ちゃんと怒りたい」
 電話の向こうで女がうなずいている気がした。少しの沈黙があって声が聞こえた。
「裕子さんがそういうだろうと思って、もう、調べてあるよ。今から行きます」
 女は言って電話を切った。裕子は背中に電気が走った気がした。

 15分ほどで、女は現れた。手には小さなメモを持っている。
「裕子さん。分かった。ご主人。今、名古屋にいる。再婚して、その相手との間にも子どもがいるみたい」
 女はメモを渡した。裕子は受け取って電話を取った。番号を押す指が震える。横で女と上村が見守っている。
「もしもし」
 少し、年取ったけれど、聞き覚えのある声がした。
「私。裕子です。この前、お家に行きました。引っ越されたと聞きました」
 裕子が話すと元夫はしばらく黙ってから、
「もう、忘れようよ」
 と小声で言った。
「そんなわけにはいかない。はっきりさせたいの。自分の心を。今度時間作ってください」
 裕子ははっきりとした声で言った。  

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2013年07月26日

ひらひら村の夕陽65

 5枚カードを並べて今の自分を引くと、ひまわりの咲いている丘の絵が出てきた。裕子はうなずいた。上村が横からのぞきこむ。
「きれいな花ですね。今の裕子さんですか?」
 茶化す感じはない。ただ、今裕子のおかれた状況とつながらない気がしたのだろうか。
「これはねえ、あいまいさをあらわすの」
 裕子は上村を見ずに、そのかわり自分に言い聞かせるようにひまわりの書いてある上を山を指差した。上村は首をかしげながらうなずいた。
「もっと先に山があるのに、途中の花畑立ち止まっちゃうってことですか?」
「そう。その通り、この山が、さっき上村さんが言ってた、どろんこになっても欲しいものを手にいれること。私やっぱり、ふまじめだったのかもしれない」
 裕子はカードを見ながらため息をついた。上村がよりそう。
「ふまじめって、言い過ぎたかもしれません。なんていうか、裕子さん自身にとってはそれが精一杯だったにしても、見方を変えればもっとやれることがあった。というのがほんとじゃないでしょうか」
 上村は遠慮がちに裕子を見た。裕子は小さくうなずいた。
 続いてカードをめくっていく。潜在的な影響で、アイランド。これは木が一本しか生えていない無人島の絵で孤独とか、独り立ちを表す。裕子はここでもため息をついて、苦笑いした。感覚のところではグリーンマン、これは相乗効果。相手のせいにしていても、自分も同じことをしている、という意味だった。考えの位置ではDNA、これは考え方のパターンから抜け出せない。
「ほんと、上村さんの言ったとおりだった」
 裕子はここで少し表情が明るくなった。それにあわせるように上村が言った。
「裕子さん。そこをうったんですよ」
 裕子は上村を見てうなずいた。
「いよいよ。結果にところね」
 裕子は独り言を言って、5枚目をめくった。ヴィジョンクェスト。冒険を表すカードだった。裕子はゆっくり顔をあげた。
「上村さん。私、今はじめて、カードをやっててよかったと思った。勇気をもらったよ。私、これから冒険の旅にでる」
 裕子のことばに、上村が不思議そうな顔をした。  

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2013年07月25日

ひらひら村の夕陽64

 「ずるくなればいいっていうこと?」
 裕子は上村を見上げた。上村はとまどったように視線をそらせた。
 「そうかも、知れません。でも、その方がまじめな気がします。自分に対して」
 上村は遠慮がちに言った。裕子はなんだかおかしくなって、声をあげて笑った。上村にからかわれている感じはしない。でも言われている意味が分からない。上村が続けた。
 「息子さんが怒ったの、ちょっと分かる気がします。裕子さんは、自分や家族を守ろうとしていたとはいっても、まじめじゃなかった。本気でどんなにどろんこになっても、勝ち取ろうっていう気魄がなかったって気がします」
 上村は一気にしゃべってから、急にうつむいて「すみません」と言った。
「どろんこにならなかった?」
 裕子は低い声でくりかえした。上村はハグしていた腕をゆるめて裕子から離れた。
「すみません。ぼくが偉そうなこと言えないですね」 
 上村はまた小さくなった。裕子はそんな上村の肩に手をおいた。
「怒ったんじゃないよ。なんか腑に落ちた。そうか、ふまじめだったかもしれない」
 裕子は言って、テーブルにカードを広げた。  

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2013年07月24日

ひらひら村の夕陽63

「ねえ、上村さん。ふまじめってどういうことでしょう」
 落ち着いた裕子がぽつりと言った。上村はハグしていた腕をゆるめた。とまどったように顔を見る。
「ゆうこさんはまじめだと思います」
 そういって、顔をふせた。上村とは一度だけとは言え不倫の関係になったのだ。裕子は軽く笑顔を浮かべた。
「息子に、会いました。20年ぶりに。その息子に言われたんです。ふまじめなのに、人を裁いてきたって。ひどく責められました」
 裕子は、20年前に夫と姑に愛想をつかし、息子を連れて家を出たこと。その後に夫が息子を連れ戻してしまったこと。離婚の話し合いの中でありもしない虐待をデッチあげられ離婚をせざるを得なかったことを話した。
 上村は聞き終わっても、裕子をじっと見ていた。
「息子さんが言ったことって、もしかしたら、裕子さん自身に対して優しくなかったってことじゃないですか?」
 上村は裕子の肩を抱いた。裕子は気が抜けた顔で上村を見た。上村が続ける。
「裕子さんは、傷ついても、なんとか自分で解決しようとしすぎたんじゃないですか」
「だって、誰も頼れなかったじゃない」
 裕子は子どものような目をした。
「でも、もっとずるくてもよかった。たとえば、一度、家にもどっておいて、ご主人や子どもをちゃんと手なずけてから、お姑さんを追い出してもよかったし、方法はあったと思う。そこのところが、甘いっていうか、直球すぎたんじゃないかな」
 上村は優しい声で言った。
  

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2013年07月17日

ひらひら村の夕陽62

「母さんはいつもそうだったんだよ。そうやっていつも自分はいい人で、まわりを裁いてきたんだ」
 息子は捨て台詞を残して店を出て行った。裕子の中で割り切れない思いが水車のようにまわった。
「わたしは、ふまじめなんかじゃない」
 テーブルに顔をふせて、つぶやいたら涙が出てきた。これまでやってきたことが、砂の城のようにくずれていく。
「もう、死んでしまいたい」
 思わず口にした言葉にどこかから声が聞こえた。
「そんなの裕子さんらしくないですよ」
 神村の声だった。すぐ後ろから聞こえる。裕子はふりかえった。そこに神村が立っていた。
「裕子さん。何度声をかけても気づかないんです」
 神村は笑みをうかべた。入り口からのぞいて、ドア越しに声をかけたが返事がなかったので入って来たと言う。そのまま、言葉もかけられずにずっと後ろに立っていたという。
 裕子は急にはずかしくなった。こっそり着替えをのぞかれたような気がした。顔が赤くなって大声が出る。
「なによ。今、お店やってないのよ。かってに入ってきて」
 裕子の言葉に神村は頭をさげた。子犬のような目で裕子を見上げる。そして、小さな声を出した。
「すみません。このまえ、ぼくはお客じゃないって言われたから、いいかと思って。それと」
 神村はそこまでで言葉を止めた。
「それと?」
 少し落ち着いた裕子が次をうながした。神村は間をおいて声を出した。
「裕子さん。消えてしまいそうだったから……」
「私が?」
 裕子は思わず笑いをうかべた。そんな裕子の肩を神村が遠慮がちに抱いた。
「裕子さんは死んじゃだめだし、消えてもだめ」
 そういって、腕に力をこめた。
 裕子の中でなにかが壊れて、涙がこぼれた。
 神村は小さな声で「すみません」と言った。
「すみません。ぼくがもっと強かったら、あなたを悲しませないのに」
 裕子は小さく首をふった。  

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2013年07月14日

ひらひら村の夕陽61

「母さん。あなたは不真面目だったんだよ」
 息子は裕子をきっとにらんだ。
「ふまじめ?」
 裕子は口の中で言葉を転がすのがやっとだった。子どものころから、固すぎると言われることはあっても不真面目といわれたことはない。20年前に家を飛び出したのだって、裕子なりに精一杯動いたのだ。
「母さんは、自分のことしか考えていなかったんだ」
 息子は今度は裕子を見ようともしない。
「私はちゃんと、お父さんとも話した。あなたのお父さんが、私より、おばあちゃんや家を選んだんじゃない」
 裕子は必死にこらえていても、途中から涙声になった。
「そういうことじゃないんだ。母さんは、いつもいい人の仮面をかぶって、父さんやぼくたちを監視してたんだ」
 息子の言葉は、「いい人の仮面」のところが胸にひっかかった。
「私は仮面なんかかぶってない。監視もしてなかった」
 裕子は金きり声をあげた。  

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2013年07月05日

ひらひら村の夕陽60

「結婚?」
 裕子が聞くと、息子は強くにらみながら声を出した。
「うまくいくと思ったんだよ。ちゃんと分かってくれてた」
 言いながら息子は泣き出した。両腕でなみだをぬぐう。裕子がハンカチを出そうとすると、その手をはねのけた。
「私が。母親がいないから断られたの」
 裕子はおそるおそる聞いた。息子は舌をむいたままで首を振った。
「ぼくの相手も、相手の親もそんなこと気にしないと言ってくれた。そうじゃないんだよ。ぼく自身なんだよ」
 息子はまた、首を振った。裕子は電話で呼んでくれた女と男に頭をさげた。二人が意さっして去っていった。
「とにかく、私の家に来て。話聞かせて」
 裕子は息子の腕に手をやって立ち上がらせると、タクシーを拾って店にもどった。
「おばあちゃんは、去年なくなったってきいたけど」
 店について裕子が聞いた。ほんとに聞きたかったのは夫のことだったが……。
 息子はつれそうに口を開いた。
「死ぬまで、母さんの悪口言ってたよ。ある意味気の毒な人だった」
 息子ははき捨てるように言った。
「まあ、言われてもしょうがないんだけど」
 裕子は苦笑いした。そんな裕子を息子がにらみつける。
「母さんがそんなだから、みんな苦しんだんだよ」
 息子のことばに、裕子は言葉が返せなかった。  

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2013年07月04日

ひらひら村の夕陽59

 裕子は店を飛び出してタクシーを拾った。先ほど聞いたバス停を告げると、無愛想な運転手は軽くうなずいて車を出した。
 バス停に着くと、若い男が2人つかみ合っている。女が泣き叫んでいる。裕子は車を降りると走り出した。
「あなたたち、やめなさい」
 裕子は声をしぼって止めに入った。見覚えのある若い女が肩を落として涙ぐんだ。安心したらしい。
 男たちは、裕子に気づいて手を止めた。
「あなたは」
 思わず裕子は息をのんだ。20年前においてきた息子だった。当時5才だったからもちろん顔や体は大人になっているが、面影はある。
 男は一瞬裕子を見て表情がかたまった。そのあとけわしい顔になった。裕子の手から力が抜けていく。
 若い女が説明する。
「彼といっしょに近くを通りかかったの。そしたら、この人が家を覗き込んでいたから、声をかけたら突然なぐりかかられて」
 女が話しているうちに、男二人も落ち着いてきた。逆に裕子のほうが声が上ずっていく。
「この人。息子なんです。20年前において家を出ました」
 裕子は小さな声でやっと言った。男が裕子をにらんだ。
「おれ、結婚がこわれたんだ。この女のせいで」
 男は裕子を指差した。裕子は男を見た。
「このまえ、隣の奥さんに会った。あのあと、すぐにおばあちゃん亡くなったって聞いたけど」
 裕子が言うと、男はきつい顔をした。  

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2013年06月28日

ひらひら村の夕陽58

 上村が帰っていくと、裕子はカウンターのイスにぼーっと座った。一人はさびしい反面ほっともできた。がんばっていなくても、ひっぱられるままに沈んでいっていい。カードを出してシャッフルする。途中なにかにひっかったように1枚が飛び出した。ジャンピングと言われ、そのカードにはメッセージがふくまれているとされる。
「ニュービギニングかあ」
 裕子は手にして一人ごとを言った。朝日の中で大きな川がゆったり流れている。裕子のなかで不思議な思いがわいてくる。
「また、はじまっていくんだ。新しく」
 ポツリと言ったところで、携帯が鳴った。最初に裕子がカードを使ってみた若い女だった。彼女の母親に事件に巻き込まれていったのを思い出す。女は裕子の都合も聞かず話し出した。
「ねえ、裕子さん。助けて。彼がけんかしてるの。止められない、わたしじゃあ」
 女は泣き声を出しているが、裕子も助けにいく気力はない。
「ごめん。警察を呼んで。私そんな元気ないの」
 裕子はそれだけ言った。
「そんなこと言わないでよ。誰かあ。もう、死んじゃう。お願い、来てよ。***町のバス停の前なの」
 女が言った住所は裕子が前にいた家のすぐ近くだった。さっきまで行っていた街だ。裕子の胸がどきりとした。
「ちょっと待って。行くから。すぐ行くから」
 裕子は背中を押されるように店を出た。  

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2013年05月29日

ひらひら村の夕陽57

「ぼくが探しに行くよ」
 上村は立ち上がって言った。裕子は半端に笑いながら上村を見た。光の加減か青年のように見える。それがちょっと微笑ましい。
「どうしても、会いたかったってわけじゃないの。急に思い出したら、行ってみたくなって」
 裕子はカウンターを出て、上村の横のイスに座った。上村はじっと目の前のカウンターを見ている。
「僕の友達で、昔、引越し業者やってたやつがいるんです。そいつなら、いろんなつてで、引越しの記録とか、もってるかも知れません」
 上村は思いついたのか、うれしそうに立ち上がった。
「ちょっと待ってよ。あなた、警察から疑われていたのよ。私が身元引受人なのよ。こんどなんかやったらホントに逮捕されるよ」
 裕子のほうがあわてた。上村はひっこまない。
「だいじょうぶですよ。そんな法にふれるようなことはしません」
 上村は言いながら、携帯を出した。誰かに電話して、相手が出るのを待ちながら裕子に話しかける。
「前に、知り合いの彼女を見つけたことがありますが、引越し業者って、けっこう横のつながりがあるんです。トラックを融通しあうこともあって、情報を共有していたりするんです」
 上村がそういったところで、相手が出たらしい。小声でなにか話している。しばらく話してから、電話を切った。
「頼んでみました。あと、だめなら宅配業者にも聞いてくれるそうです」
 上村は裕子に向けて親指を立てた。
   

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2013年05月27日

ひらひら村の夕陽56

 裕子はそのあと、どうやって帰ってきたかおぼえていない。夢遊病者のように、帰巣本能だけで店にもどってきた。
「私が悪かったのかなあ」
 店の看板も出さず、明かりもつけずに独り言をいった。カードを出しても広げる気にならない。頭の中には、20年前の子どもの顔が浮かんで消えた。裕子を目の敵にしていた姑の顔が浮かんだ。なぜか、夫の顔は浮かんでこない。
 裕子は苦笑いして、ため息をついた。いっしょにいるときから、存在感がなかった。
 どのくらい時間がすぎただろう。気がつくと、店の前に人が立っていた。窓越しに男の頭が見える。
「すみません。今日は、休みにしています」
 裕子は立ち上がって答えた。
「そうですか。またきます」
 男は立ち去っていこうとする。声から上村だと分かった。裕子をホテルに行って、そのあと、警察に逮捕された男である。裕子はあわてて立ち上がった。
「上村さん。あなたは、お客じゃないでしょ」
 裕子が声をかけると、上村はもどってきた。ドアを開けると、入り口でもじもじしている。
「ああ。誤解しないでよ。上村さんが私の男だなんて思ってないよ。だけど、私、あなたの身元引受人でしょ。責任あるもの。入って」
 裕子の言葉に、上村は顔をあげないまま入ってきて、カウンターの一番すみに座った。裕子はカウンターに入りお茶を入れた。その間も上村はだまっていた。
「あのう。なにか、ぼくがお役に立てることってありませんか」
 上村は遠慮がちに声を出した。裕子は不思議に思って上村を見た。話の流れが分からない。裕子の今の気持ちを知っているはずもないのにと思った。
「すみません。あのう。裕子さんがバス停から歩いてくるの見たんです。で、声をかけようにも怖くてかけられませんでした
 上村はやっとそれだけ言った。
「じゃあ、なに? 私がもどってからずっとそこで見てたの?」
 裕子は上村の顔をのぞきこんだ。上村はうなずいた。子犬のような目だった。警察からもどってきたときの目だった。
「心配してくれてありがとう。ちょっと気持ち悪いけど」
 裕子はちょっと笑顔になりながら、コーヒーを出した。上村が見つめる。裕子は口を開いた。
「20年前に飛び出した家を見に行ったの。もう、引っ越してた」
 裕子は、落ち込んでいるわけを話した。  

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2013年05月13日

ひrひら村の夕陽55

 バスがその町に入ると、裕子は胸がくるしくなってきた。なつかしい思いとすっぱい思いがいったりきたりする。
 バスを降りると、一つ深呼吸した。その先のかどを曲がれば、昔の家の前に出る。

 家を出てからなんどか、メールしたり電話したりしたが通じなかった。そっとしておいてほしいの一点張りで、そのうちその返事さえこなくなった。どきどきしながらかども曲がってみると、15年まえと少しも変わっていない。タイムスリップしたみたいに、その間すごした自分の時間はなんだったかと思った。わるf
「あれ?」
 家の前にきて、裕子はつぶやいた。表札がかわっている。そこだけ、今風のグレーで「kawase」と書いてあった。
 心では、がっかりしながらほっとしている自分もいた。しばらく、玄関前に立っていると隣の家それでkの奥さんが出てきた。目を丸くして立ち尽くしている。まるで幽霊を見たようだった。
「裕子さん。生きていたの?」
 隣の奥さんはやっとそれだけ言った。まばたきはまだしていない。
「あのう。離婚したんですが、そのあと連絡がとれなくて。あのう。引っ越したんでしょうか」
 裕子がやっとそれだけ聞くと、隣の奥さんは裕子のそばにきて小声をだした。
「あのあとねえ、2年くらいはおばあさんと、あなたのご主人と子どもさんたちで住んでいたんだけどね、3年目の春かしらねえ、おばあさんが急に倒れて、面倒みるためにご主人が仕事やめてねえ、そのあとは坂をころげるようだったわ。ローンもあったんでしょうねえ。あわてて家を売りに出して引っ越していかれたわよ。引越し先はきいたんだけど、すぐにそこもこしたみたいで」
 隣の奥さんは申し訳なさそうにいった。
 裕子は頭を下げて、その町をあとにした。  

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2013年05月12日

ひらひら村の夕陽54

 あくる日、裕子は店を開けるとカードを出した。一日を占っていく。カードを覚えてからの習慣である。
 今の自分のところで、ドラゴンフライが出てきた。トンボが羽化するときの絵が描いてある。
「変化かあ。自分が出て来るんだよねえ」
 自分に言い聞かせるように独り言を言った。
「変わるって、どんなふうに?」
 心の中でもう一人の自分がつぶやいた。苦笑いしながら次のカードを引いていく。願い事の位置になる。
 砂漠のカードが出てきた。インディアンの青年が大人になるために出る旅の絵だった。
「冒険かあ。そうだよね。変化のための冒険ね」
 続いて感じていることを引いてみると、イーグルが出てきた。霊性や自分との対話である。ここで裕子は、15年前に分かれてきた子どもと夫を思い出した。夫とは今さら話すこともないけれど、子どもたちにはきちんと謝りたい。夫のほうはきちんとけんかしてみたい。
 ショッピングセンターの男との話の中でなんだか夫との関係が切なくなってきた。
「今さらだよねえ」
 またつぶやいて、感じていることをめくった。地球に息を吹き込んでいる女神だった。裕子は苦笑いした。

 残りの2枚をめくると、相乗作用のカードとインナーチャイルドが出てきた。
 「まず、動いてみるか」
 裕子は店の看板をしまって着替えた。臨時休業にしたのである。

 バスに乗り、離婚する前にすんでいた町に向かった。  

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2013年05月03日

ひらひら村の夕陽53

 男は裕子の店によった。カウンターに席を取ると気の毒なほど小さくなった。
「ねえ。奥さんとは、困ったこともちゃんと話せる?」
 裕子はコーヒーを出しながら、小さな声で言った。男は小さくうなずいた。それから話し出す。
「結婚して、すぐに上の子が出来ました。それまで派遣だったんですが、子どものためにと、衣料メーカーにつとめました。ちょうど子どもが生まれたころに、単身赴任でこの町にきました」
 男はそこですがるように裕子を見た。
「じゃあ、ほとんど夫婦になるまえに、父親になって単身赴任したわけね」
 裕子は言った。男はうなずいた。裕子は分かれた夫を思い出した。そう言えば、裕子も夫と夫婦になる前夫と向かいあってなかったことを思い出した。
「なんか分かる気がするな。私も離婚する前はそんなだった」
 そういって、15年まえのことを話しはじめた。子どもがいたこと、夫が姑ばかり見ていたこと、自分は自分のことしか思ってなかったこと、(これは後になって気づいたが)を話すとなぜか涙がこぼれてきた。
「裕子さん。なんか分かります。ぼくたち、けっこう似ているんですね」
 男は苦笑いを残して帰っていった。

 裕子はひとりになると、カードを引いてみた。
 太陽のカードがうれしかった。  

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